サークルパラドックスー時空の円環ー
なんとなくで書いてみました。高卒の55歳のおっさんの拙い文章なのでツッコミどころ満載かと思いますが良ければ読んでやってください。
1986年12月、駅前の雑踏はクリスマス前の浮ついた喧騒に包まれていた。
そんな冬の街並みの中、高校生の拓斗は、凍えながら家路を急いでいた。「う~寒い~、遅くなっちゃたよ、早く帰ってゲームして~」
苦手な社会科の期末テストで、赤点を出した拓斗は遅くまで補習を受けさせられ、やっと解放されたのだった。
駅の改札口に差し掛かる手前で誰かと肩がぶつかった。「あっ すみません・・」拓斗は謝り振り返る。
そこには虚ろな眼をした少女が立っていた。少女の反応は無く、やがて虚ろな表情のままフラフラ歩き始めた。
(なんだ? あのこ?)反応が無い少女を訝しく思った拓斗は足元に落ちていた銀色のカードのような物に気付いた。
「あれ!・・これは・・・?」そう言いながら拓斗は銀色のカードを拾い上げた。
カードと言ってもトランプより一回り以上大きく厚みもしっかりある2025年の人間ならスマホのような端末と認識しただろう。
少女が落としたものだとすぐに気づいた拓斗は「きみ!これ、落としたよ・・・・」
顔を上げたそこには少女の姿は無く、行きかう人たちで、もはやどこにいるかわからなかった。
仕方なく端末をポケットに入れ、拓斗は駅の改札口へと歩いていった。
アパートのひんやりとした部屋にたどり着くと拓斗はエアコンのスイッチを入れた。
程なくして暖かい空気が12月の冷えた部屋を快適な空間へと変えていった。
ポケットから拾った端末を取り出し、眺めながらベットに仰向けに寝転がる。
「なんだろう、これ・・?」そう呟きながら頭上の端末を手の中で回転させた。
すると、端末の横の淵にわずかだがでっぱりがあるのを指先の微妙な感覚が捉えた。
仰向けの上半身を起こすと拓斗は「これは・・ボタンか・・?」そう言いながら
指先で、端末の「薄いボタン」を押し込んだ。瞬間、青い光が端末から放たれ、光が収まると端末から声が響く。
「……あんた、誰よ?」それは拓斗の同級生ぐらいの若い少女の声だった。
「うわ!しゃべった!」拓斗は声に驚き床に端末を落としてしまう。
床の上で端末は「ちょっと!乱暴に扱わないでよ!これでもデリケートなんだから!」と怒鳴る。
目をまん丸く見開いた拓斗は端末を見下ろし、恐る恐る指先でつつく。
「ちょ、やめなさい!つつかないで!女性を指でつつくなんて頭おかしいんじゃないの?!」とまたもや拓斗は怒鳴られた。
「マジか・・・・」呆気にとられつつも端末を拾い上げ、繁々と見つめる。
「だーかーらー 何なのよ!さっきから床に落とすは、指でつつくは、今度はジロジロ見回して!失礼じゃない!」
「何これ、最新式のゲームか?まるで生きてるみたいじゃん」端末の言うことなど全然聞いてない。
「私はゲームなんかじゃないわよ。私は心愛。ちゃんとここに生きてるわよ。」そう言われ初めてタクトは気付いた。
「会話…できてる・・」驚きを通り越して感動する拓斗、ゲームが好きな高校生らしいと言えばらしい。
「きみ・・心愛・・だっけか?俺は桐山拓斗。でいったいどこの誰なの?」と端末に話しかける。
この事態に適応するのも拓斗のゲーム好きが為せるワザかもしれない。
「私は私よ。2050年から分け合って1986年までやってきたの。」心愛が淡々と話した。
「2050年? やっべ、すげえ未来じゃん。タイムマシン?いや2050年ってどんななの? やっぱ宇宙とか行ってるの、車が空を飛んでるとか?」
「ちょっと。捲し立てないで。落ち着いて。」拓斗は心愛にたしなめらえる。「あ・・ごめん・・つい・・」
そして心愛はあることに気付き逆に声を荒げた「ちょと!今気付いたんだけど、零は?零はどこよ!?」
「ん?零?なにそれ?」首をかしげる拓斗。 「15、6歳くらいの女の子よ!私と一緒にいたはずだわ!いったいどこ?」
そう心愛に言われ拓斗の脳裏に駅前での虚ろな表情の少女が浮かんだ。
「そういえば、心愛を拾った時、気が付いたらもういなかったよ」思い出しながら告げると「大変だわ!早く探し出さないと!あの子は私の身体なの!」
心愛が慌てる。 訳が分からず拓斗は「身体?どういうこと?心愛の身体が零って子? 意味が分からないぞ」と当然の事を言った。
「とにかく探して!おねがい! あの子にもしもの事があったら・・私は大変なことになるの!」尋常じゃない慌てぶりの心愛。
「わ、分かったよ。探せばいいんだろ。でも、駅前にまだいるかなぁ?」事情が分からない拓斗には他人事である。
かくして クリスマス前の駅前捜索が始まった。
学生服の上にコートを羽織った拓斗は心愛をそのポケットにしまい、北風が吹く12月の駅前に向かって走っていた。
出かける支度のさなかに心愛からおおよその事情を聴いていた拓斗は
「要するに、2050年から来る途中にその零って子と心愛は分離したって事?」拓斗はポケットの中の心愛に話しかける。
「正確には、あたしが零よ。でも、意識とか記憶とか人格全てが、この端末に移ってしまったの。
元々この端末はこの時代のナビゲート用システムだったのよ。
それが時空転移の時に、何故だか分からないけど分離して気が付いたらこの中に入ってたって訳」
拓斗はナビゲート用システムやら時空転移やらでSFの夢でも見ているようで仕方がない。
「仕方がないから、あたしがこの端末、KOKOAの中からあの子に指示して安全な場所へ移動しようとしてたの。そしたら・・」
「俺とぶつかってはぐれた・・・と」まるで傍から見たら独り言にしか見えない光景である。
たまに行き交う通行人にすら「なんだこいつ」と言わんばかりに見られる。
先ほどもベンチに座って何やらチキンのようなモノを頬張っている人に凝視されてしまった。しかも見えなくなるまでずっと。
「そう。一瞬、意識を失って・・・次の瞬間目の前にいたのが拓斗、あなただったわ」
そんな会話をしながら駅前を右往左往していた。丁度、繁華街に差し掛かった時だった。
「だからね、お、お、おじさん達は、な、な、なんていうかな。 あったかいところ?
そう、あったかーいところでご飯食べようって言ってるんだな。分かってくれるかな」酔っ払いたちの声が聞こえた。
「うむ この寒空の下、私たちと共に食するといい そんな12月の繁華街に優しい私がここにいるよ」
クリスマスが近いせいなのか酔っ払いはサンタ帽をかぶって変な話し方をしている。
そして、そばには零の姿があった。相変わらず虚ろな表情だ。「いた! 酔っ払い絡まれてる!」見つけた拓斗が駆け寄る。
「すいません この子僕の知り合いで・・」零と酔っ払いの間に拓斗は割込みそう言った。
しかし、上機嫌だった酔っ払いは、若い子との食事のチャンスを邪魔されたことで怒り始める。
「な、な、何だ君は!君たちは!一人だから君だったね、うん 何だね、君は!」
「そう、いい若者がこんなところにいるのは良くない、私も昔は若かった。・・分かってる、若いとはそういうものだ。
しかし、ここはオジサンたちの空間すなわちスペース。さあ、あっちへいった、いくがいい」
完全に酔っ払いのペースに拓斗は飲まれている。困り果てている拓斗の後ろから慣れ親しんだ頼もしい声がした
「よう! 拓斗じゃねえか! どうした?珍しいなこんな時間にこんな場所で」体育会系の親友・広司だった。
広司はバスケ部で身長が高くガタイもいい。拓海とはなぜか馬が合う親友凸凹コンビだ。
思いもしないゲストに酔っ払いはひるみ始める「あ、あ、あれ?助っ人すなわち助け人? よくないなぁ二人がかりは。
こ、こ、こっちも二人だったね。 これでおあいこだね。 お互い様だね。いやーめでたしだね」
「夜も遅い 気を付けて帰路につくがよい さらばだ 若人よ」そう言い残し酔っ払いは退散していった。
広司の迫力に圧倒されたらしい。「なんだ?あのおっさんたちは?」不思議な顔で広司は、足をもつれさせながら逃げていく酔っ払いを見た。
「助かったー サンキュー広司」安堵のため息をしながら拓斗が言う。
首をかしげながら広司は「なんだかわかんねえけど おう、気にすんなよ」と言った。頼もしい限りだ。
虚ろな表情をして立っている零の上着のポケットに拓斗は素早く心愛を仕舞いこんだ。
ピクっとして零はまるで催眠から溶けたように我に返った「心愛、いた」無感情で機械じみた話し方だ。
「さあ、帰ろう」拓斗は零の手を引いて歩き始めた。「おい、拓斗!誰?その子」広司も歩き出しながら聞いた。
「とりあえず広司も一緒にきてくれ」そうして一同は拓斗のアパートへ向かった。
およそアパートまで5分ぐらいのところでヒョイと路地からネコが出てきた。
「お、野良猫か?ヨシヨシ おいで~」とは見かけによらず可愛い物好きな広司の言葉だった。
ネコは人慣れしているのだろうか、近付いてきた。「ミャーー」と一声鳴くと
まるでついて来いと言わんばかりに先を歩き出した。「なんだ?この猫?まるで俺のうち知ってるみたいだな」拓斗がふとこぼす。
帰路の間、事の顛末を拓斗は簡単に広司に説明した。「うーん なんだか難しくてチンプンカンプンだけど要するに、この子は拓斗が
保護するってことでいいんだろ?」広司らしい解釈の仕方だ。「ま、まあ ちょっとズレてるけどそれでいいかな?」
拓斗は引きつった笑いで答えた。アパートに着くと「お、悪い。この後彼女がバイト終わりで家まで送ってかないといけねーんだわ。」
広司は軽く指で敬礼をして彼女のバイト先へと走っていった。
「ふー やっと落ち着いたー」部屋の中で一息ついて拓斗が言った。
零のポケットの中から机の上に移動させられた心愛が言う「そもそも、拓斗がぶつかったのが原因でしょ?」
「え?俺のせい? そっちだって注意が足りないんじゃないの?」拓斗も負けずに反論する。
本来のぶつかった相手の零はなにやら本棚から引っ張り出してパラパラと眺めている。
「あんたねー!」「なんだよ!」心愛と拓斗の攻防が繰り広げられているその中、
不意に零が拓斗のPCを立ち上げた。PCは起動音をあげ、動き始める。
拓斗は「おい、勝手にいじるなよ」と零に言った、いや、言おうとした。その時、すごい勢いで零はキーボードを叩きはじめた。
ディスプレイにどんどん流れていく文字列。あっという間の出来事だった。「出来た」ボソッと零が言うと
ディスプレイには何かのゲームの画面が表示されていた。唖然とする拓斗。「あ・・・え・・・」
零が先ほど眺めていた本を拓斗が見てみると難しくて手を付けずにいたプログラミングの本とゲーム雑誌。
「これ、零がやったのか・・・・」そこに映し出されていたのは雑誌に載っていたゲームだった。
通常ソフトを買って起動するものを、零は作り上げてしまっていた。「す、すげー・・・・」拓斗は口を開いたままだ。
心愛が唖然としてる拓斗に言う「零はアンドロイドなの。それもほとんど人間と変わらないわ。」
「!・・・アンド・・ロイ・・ド?」更なる現実が拓斗を驚かせた。
「しかも頭の中はほとんど空っぽ、私が特殊な周波数で指示してるから動いてるけど、届かないくらい離れたらただの人形よ」
淡々と現実離れした事実を告げる心愛。「おそらく、本の中身を全部吸収したのね。まぁ、今の零は言わばスポンジのようなもの、私が傍にいれば
自分から本を見てどんどん吸収して記録していくわ」そう言われたスポンジの零はマンガをパラパラし始める。
「そんな事って・・信じられない・・・」もはや頭の中がショートして現実がなんなのか訳の分からない拓斗であった。
そんなやり取りを見つめる来客が座布団の上で欠伸をしている。拓斗が「入るか?」と促したところ、「ニャー」と一鳴きして
さっさと自分の場所と言わんばかりに座布団に鎮座してしまったネコだった。
「ところでその猫、どうするの?」机の上の心愛が尋ねる。「そうだなぁ、外は寒いし放り出すのもなぁ」拓斗がネコのあごの下を撫でると
ゴロゴロとネコは目を細めた。「せっかくだし、名前をつけてあげたら?」心愛の提案に拓斗は「よし、じゃあ タマ!ミケ!タロウ!ジロウ!」
どうやら拓斗にネーミングセンスはないらしい。「リン」ボソッと零が言うと猫はピクっとして「ニャン」と鳴いた。
「決まりみたいね」心愛がそっけなく言う「ネコも女の子に名付けてもらうほうがいいのかぁ」ガッカリの拓斗。
ネコの名前が決まったところで二人と1匹(と1端末?)はゆっくりとくつろぎ始めた。
時計の針が9時半を過ぎた頃、それは突然起こった。
座布団の上でさっきまで顔を洗っていたリンが突如、窓に向かって激しく威嚇を始めた。
「シャーーーー!!」尻尾の毛と言わず全身の毛を逆立てている。
「おい、リン、いったいどうした?」ベットで横になって雑誌を眺めていた拓斗が飛び起きた。
心愛も何かを感じ取ったみたいだ。「なんか変よ!まるで私たちが転移した時みたいな感じがする」
拓斗が窓に近付き開け放つ。なにやら空に黒い歪みが生じている。まるで穴の開いたような異様な光景だ。
「な・・・・?」完全に言葉を失う拓斗。とその時、黒い空間から何か金属のような銀色の足が這い出てきた。




