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境界:ジェネラルブラッド  作者: 徘徊猫
希望を残した最後の都市

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7/42

薄汚れた世界の端で

 都市の郊外は荒涼とした雰囲気とともに剣呑さを孕んでいた。

 それもそのはず。この場所は結界の外周に近いため、多くの荒くれ者や無法者が集まり、そこら中で違法な取引を行っている。

 警察がそれを取り締まることはない。というより、結界の外に出てしまえば簡単に追うことができない。

 結界の外は際限なく広がる瘴気の世界。

 魔物が蔓延り、安全地帯などありはしない。

 一部の採掘者などが結晶石をエネルギーの燃料とするために命懸けで採掘するくらいで、それ以外に自ら外に出ようとする者は身の程知らずしかいない。

 とはいえ、無法者たちの間にも秩序はある。

 それぞれが縄張りを持ち、その境界で睨み合っているのだ。


 *


 ヒスイは剣を手にして、一人で郊外へと向かう。

 余裕はない。

 周囲を確かめる目は徐々に抑えきれないほど鋭くなっていた。


 「……」

 一人の男が近づいてくるが、ヒスイは無視した。

 けれど、その男はこちらに気づくと真っ直ぐに近づいてきた。

 「よ! ヒスイ、こんなところで奇遇だな」

 「……すまないが、今忙しいんだ。後にしてくれ」

 その男を躱して進もうとしたところ、肩をがっしり掴まれた。

 「そんなの、見れば分かる。お前のそんな顔、見たことなかったしな……少し時間をくれ。元兄弟子として、俺の頼みを聞いてくれるか?」

 ヒスイは溜息を吐いた。

 「分かった」


 元兄弟子のレック、彼は師匠の門下にいたが十年前の災害より前に師匠の下から離れていた。

 「にしても、あの距離でよくオレが分かったな。なんか妙なやつがいるなって思ったら、目を逸らしやがって……でもお陰で、お前がヒスイだって気づけたよ」

 そう言って彼は快活に笑う。

 昔と何も変わらず、この郊外でもその笑顔に曇りはない。

 「それで……何の用だ? 俺は、」

 「その様子だと、ここに当たりはつけたみたいだが、ツテも人手も足りないんだろ? オレが手伝ってやる。だから、少し落ち着け。師匠から教わった剣を、そんな状態で振るつもりか?」

 「……」

 相変わらず、レックは人をよく見ている。

 ヒスイは彼の昔の人となりを信じて、全ての経緯を話すことにした。


 *


 薄い板で仕切っただけのようなバラックの小屋にヒスイとレックは入った。奥に続く扉からちらちらと長い髪の毛が見える。レックは気にした様子もなく、ヒスイを席につけた。


 レックはヒスイの言葉を聞いて、レックは驚いて声を上げる。

 「治癒者の娘?! あの人って、娘がいたのか?」

 「……言葉の綾だ。というか、治癒院のことは知っているだろう。イロハはあそこの子供で、治癒者と同じ聖血を持っている。だから、多くの人は“治癒者の娘”と呼ぶんだ」

 レックは首を傾げた。世間を気にしないのも十年前と変わっていないらしい。

 「……イロハは、治癒者のコピーということだ」


 レックはその言葉で状況を呑み込んだようだ。

 「聖血か……なるほどな。それは少し面倒なことになりそうだ」

 「何か手がかりを知っているのか?」

 ヒスイがつい身を乗り出すと、レックは仕方なさそうに頭を掻く。

 「聖血っていえば最近、裏の取引でよく使われるようになっていてな。それ自体は多分そのお嬢ちゃんみたいなのから採取した血のコピーのコピー、いわば見た目だけ真似た劣化品なんだ。ただ……そんなもんでも限りはある」


 「どこが取引をしたんだ…?」

 傷を治す効果すらも満足に行うことすらできないだろう。それをどこが、何故入手したのか。

 「あれだよ、最近流行ってるだろ。清浄水、マキシマム…だったか。あの会社だ」

 「血を、飲料会社が?」

 凄まじく嫌な予感がする。

 「始めは噂だった。それを飲んだやつらはトリップするってな。オレも最初はただの噂だと思った。だが、郊外では徐々に倒れるヤツが出始めたんだ。調べてみたら、そいつらは聖血の売人で、取引した飲料会社からその飲み物をたんまりもらったらしい」


 レックは顔を険しくして続きを口にした。

 「つまり、あの飲み物の中には聖血が使われてるってわけだ。オレのツテで確認も取れたし、間違いない。……とはいえ、オレも依頼をちょうど受けていてな。どうしようかと思ったときに、お前が来たんだ」

 全てを語りきって、レックは表情を戻す。

 「ここで不審な車を見つけんのも、それを追跡するのも土地勘もなくて人手もないお前だけじゃどうにもできないだろ?」

「……だけれど、依頼があるんだろう?」


「普段ならな。今回は良い依頼人なんだ。すぐそこにいるから、少し話してくるから待ってな」

 レックは奥の扉へと消えて、誰かと話している。

「いいよ、それを選んだのなら…」

 その声は幼い女の子のような声だった。

 一分も待たずして、レックは帰ってきた。

 「……」

 「さて、依頼人の了解ももらったし。さっさと行くぞ」

 レックはどんどん前へと進んでいく。

 ふと、ヒスイは視線をさっきまでいたバラックの小屋へと戻した。見えないのに、何とも言えない視線を感じた。

 「おい、さっさと行くぞ! 勇者至言の一『前に進め、その果てに道はある』だ!」

 「相変わらずだな…」

 ヒスイは振り返るのをやめて、レックを追った。

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