見知らぬ帰郷
疲れ知らずに彼女は街を歩き回った。
日が暮れ、街に灯りが灯る頃さえその歩みを止める理由にはならない。四方を巡り、時として空を浮遊しながら俗世を見渡した。
(でも、私はこの都市について何も知らない)
やはり、知り合いを見つけることを優先するべきなのだろう。そう結論づけて、彼女は見晴らしのいい高層ビルから飛び降りてふわりと着地した。
(ただ、消息を掴むための手がかりが少ない。人に尋ねるのが無難だな)
周囲を見渡すと、スーツを着て疲れた顔をした人々が往来していた。同じような人ばかりで、仕方なく適当に選んだ人に声をかけた。
「すまないが…」
「他にしてくれ」
「少し聞きたいことがあるんだが」
「すみません、用事があるので」
「……むぅ。他の場所で聞いたほうが良いかもしれないな」
少し頬を膨らませつつも、もう少し人通りが多い場所へと足を向けた。知り合いがいないかと視線を巡らせると、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
小さな背中、記憶よりも背が伸びている気がするし、少し若い気がするが間違いないだろう。そう思って呼び止める。
「フィル──」
しかし、振り返った顔を見て確信した。
フィルモニアではない。似ているが、フィルモニアよりもずっと柔軟な雰囲気がある。
「どうかしたのか?」
少女は首を傾げる。
信号機が移り変わり、少女はそちらに一度視線を向けたが、再び視線を彼女に戻した。
「……すまない。知人と間違えたみたいだ」
顔つきもかなり似ていることに戸惑いつつ、軽く笑って誤魔化そうとした。
「何か困りごとなら、力になるよ。事情はよく分からないけど、お姉さん困ってるみたいだから」
「それはありがたいね。君のような優しい子に出会えるとは幸運だ」
「それは少し大げさだよ。私は姉妹の中でも怠け癖がある方だし、もっと凄い人たちをいっぱい知ってるから。私はニイナだよ。よろしく」
「私のことは……そうだね、ハクとでも呼んでくれ」
*
治療院に続く道を一緒に歩きながら、ニイナはハクの話を聞いていた。
「人探しか……警察に頼ってみるのが良いんじゃない?」
「警察? ああ、そうか。確かに」
その考えは思いつかなかった。
というよりも、過去の記憶と現在の差が大き過ぎて、あまり適応しきれてないのかもしれない。
「最近ね、治療院に重症を負って治療中の警官がいて知り合いになったんだよ。その人なら、力になってくれるかもしれない」
「私は治療院とやらに入ってもいいのか?」
「んー、どうだろ? もう暗くなっているし、外で待ってもらうのもね……そこら辺は私が何とか頼んでおくよ」
ニイナはそこまで深く考えていない様子だった。
ハクとしても会えなければ別の手段を考えるが、少し治療院の中も気になっていた。
「いや、……そうだな。少し後ろめたいけど、手を貸してくれる?」
ニイナは治療院のセキュリティを通過してコホンと咳払いをすると、まるで霧のようにいつの間にかハクが隣に立っていた。
「一体どうやったの? ……手品みたい」
「手品というものは種がバレたら面白くはないんじゃないかな。なら、少しお預けさせて」
ニイナは扉を叩くと、中から女性の声が聞こえた。
扉の先には、お菓子を口にくわえながら手に持っていたゲームから視線をあげる小柄な女性がいた。
「リーナフェルトお姉さん、少し時間をもらえる?」
「えっと、ニイナちゃん……だったけ? いいよ、もちろん。怖い怪談でもはなしてあげよっか」
からかうように笑みを浮かべると、ニイナは少し体を引いた。
「それはいいよ…好きじゃないし。そうじゃなくて、お客さんを連れてきたんだ。力になってあげてほしいんだ」
「お客さん? 珍しいね。私に用があるなんて。そちらさんは……」
リーナフェルトがハクを見た瞬間に思わず固まる。
「……ちょっと待って、なんで死んだはずの守護者がここにいるの?」




