狂瀾怒濤
「……死に場所を決めるほど、諦めてないから!」
リーナフェルトは自身を鼓舞して、目の前の攻撃に抗った。爆発を落ちていた盾で防御し、仲間の遺体から結晶石を抜き取る。それを遠慮なく使い、氷の壁をいくつも生み出した。リーナフェルトは身を潜めながら、何度も繰り返される爆発に耐える。
「効果的な時間稼ぎだ。一人で先ほどと同じことをして、ここまで抗えている。だが、つまらないな」
氷壁の端を槌で叩きつけられたかのような衝撃が襲う。氷壁は簡単に砕け、それをもう一方の端へと向かって順に繰り出されていく。
脚を撃ち抜かれ、余力もない。
(……まあ、こんな奴の言いなりにならなかっただけマシかな)
人並み外れた正義感も、度量もあるわけではない。
ただ、いらついただけ。
結局のところ、こんなものは実験ではなく強制に過ぎない。そんな人間の一人として扱われるくらいなら、こうした方が数段上等に思えた。
「つまらない? 必死に生きている人を嘲笑って面白いと感じるのなら、それこそおかしな話だね。勝手に評価して、勝手に批判する。君こそ、枠組みに囚われて憐れだって思うよ。ああ、ごめん。君は人間じゃないって言ってたっけ。なら、君の真理も人間にとっては無価値で、役に立たなさそうだ」
最大限の皮肉を込めて、リーナフェルトは笑った。
「それにうちも賛成。こんなに都市を滅茶苦茶にしてくれて、君は高みの見物? なら、うちがそこから落として上げるよ」
指が鳴る音が聞こえたと思った瞬間に、サーチェスは背後の爆発によって地面へと落ちた。
まともに受け身を取ることなく、顔から地面に叩きつけられ、顔を押さえながらサーチェスは立ち上がった。
「……誰だ?」
「そんなおっかない顔しないで。もう忘れちゃったの? やっぱり、君にはブリューゲルを追い越すことなんてできないよ」
爆発と重力波がセツナを襲う。
しかし、本人は気にした様子もなく、次の瞬間には飛び掛ってきた手も地面へとめり込んでいた。
「おもちゃがあるからって、はしゃぎすぎだよ。それ、ブリューゲルの研究資料から盗んできたやつだよね。借り物の力をふるって偉ぶるなんて、そんなことよくできるね」
セツナがサーチェスの頭を踏むと、さらに力を込めて地面に亀裂が入った。
「はぁ…、見るに堪えないってこういうことを言うんだろうね。そこまで余裕があったわけではないけど、見れば分かる。人を痛めつけるだけ痛めつけて、全部が自己満足。本当につまらないよ」
うんざりするように、セツナはため息をついた。
「…なら、貴様にもその権利があるのか!」
セツナの足首を掴み、サーチェスはセツナを投げ飛ばす。
しかし、セツナはまるで重力を無視するかのように壁に着地した。
「どうでもいいよね、それは。君は既に一線を越えたんだから、その責任を負わないと」
その言葉を皮切りに、爆発の応酬が繰り広げられる。セツナはリーナフェルトに視線で合図を送って、彼女を退避させた。
「凶人気取りの方が、よほど空虚に思うが?」
「凶人? アハハッ、そんなの他人の感想でしょ。うちは一度も自分を凶人だなんて思ったことはないし、賢いとも思ったことはない。でも、君よりもよほど道理ってものを知ってるかもね。机上の空想家さん?」
セツナは身軽に動き回り、サーチェスは物量で押し切ろうとする。
「奇人、変人なんでもいいけど、変わり者だからって何か特別なわけじゃない。そこにある天才と凡人の違いは、君がよく分かっているはずだよ」
「だからなんだというのだ。全てがあいつの専売特許というわけでもないだろう。私は、あいつの真似だけをしてるだけではない」
自由に動き回るセツナを絡め取るように、重力の波が一箇所に集められる。空間を歪ませ、光さえも引き伸ばされていく。
「ふうん、そこまでできるんだ」
「重力の渦に呑まれる準備はできたか?」
サーチェスは徐々にそれの出力を上げさせて、周囲にあるありとあらゆるものを呑み込む嵐の目のような重力の極点を作り出した。
「でも、残念。それは知ってるよ」
まるで導火線に火を付けるかのように、セツナは重力の渦を狂わせる。均衡を失い、収縮から内部から外部へと一気に膨張へ傾き──爆発した。
「だって、私が研究に協力してたんだから」




