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境界:ジェネラルブラッド  作者: 徘徊猫
濁りえのキャンバス

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合理性負荷

「──ッ!」

 リーナフェルトは、サーチェスの頭、心臓と順に急所を撃ち抜いた。しかし、サーチェスは風穴を開けられてもなお倒れる様子はない。


「酷いな。痛みを感じないとはいえ、そこまで遠慮なく殺意を向けてくるとは。それとも、君たちは銃に撃たれても動く私を、人と認めてくれないのか?」

 その減らず口に銃弾を浴びせられてなお、他の部分を削って再生し、余裕さを崩さない。


「ふむ、まあいい。どこまで耐えられるか見てみよう」

 サーチェスが残された片手でリーナフェルトたちのいる方へと指を指すと、無数の手がわらわらと警官たちに飛び掛っていく。

 まとわりつかれた警官の一人が引き剥がそうとした瞬間、密着した無数の手が輝きを放つ。

「や、やめ──」

 爆発が引き起こされた。

 血飛沫が散り、あまりの凄惨さに一部の警官が口元を抑える。


 けれど、それに気を取られている場合ではなかった。リーナフェルトは銃での制圧を諦めて、結晶石を取り出した。

(動きを留められれば…!)

 冷気が一瞬にして生まれ、近づいてくる手を氷漬けにする。


「盾で持ち堪えて、近づくかれる前に凍らせて対処して!」

 仲間へ指示を飛ばしながら、この状況にリーナフェルトは焦燥感を感じていた。

(嫌な感じ……試してくるなんて)

 今もなお、サーチェスは排除する意思を見せない。まるで人の命を玩具のように軽く扱っている。それで数秒生きながら得たとしても、その数秒に刻まれた苦しみは簡単に拭い去れるものではないだろう。


 警官たちは盾で互いをカバーしながら、なんとか耐え続けていた。それを見て、サーチェスは嗜虐的な笑みを見せた。

「なら、ステップアップといこう」


 指を鳴らす音が聞こえたと思った瞬間から、身体がやけに重く感じた。周囲を確認すると、仲間たちも動揺に辛そうな表情を見せる。

「ぐっ、重い……!」

「早くあれを止めてくれ!」

「やってんの! やってるわよ!」


 そんな負荷をかけられた状態で、平静など保てるのだろうか。心が蝕まれていく。砕けてゆく。

「来ないで、来ないで来ないで…!」

「もう無理……助けて…誰か」


 耳を塞ぎ、蹲る人をどうして叱咤できようか。そもそも、もうそんな余裕はない。

 退路もサーチェスは許すつもりはないだろう。

 むしろ、袋小路に追い詰めるための悪意の罠でしかない。


 じりじりと追い詰められ、リーナフェルトは決断を迫られていた。

(賭けに出る? 分は良くない……、それに倒しきれなければもう一度貯める余力はない。……救援は来るはずだけど、間に合うの? そもそも、その救援隊すら助けになれるとは限らない)

 相手の何もかもが未知数で、底しれない敵を相手に対処法など存在しない。


(でも、正直あの顔を一度ぶん殴ってやりたいけどね)

 リーナフェルトは賭けに出ることにした。煙幕をめぐらして、サーチェスの視線を遮る。


「目眩ましか。だが、ケースの奥に引きこもったペットをどう出せばいいか、知っているか? そう、揺らしてやればいい」

 そこから始まったのは、荒波のように打ち寄せる爆発の波状攻撃だった。

「ふふっ、昔を思い出すな。なかなかどうして…アリを巣穴から追い立てるのは今でも心が躍るものだ。達成感というべきなのか、どうやって追い立てるのかという過程を楽しんでいるのか、どちらもかもしれないな」

 耳を塞いでも伝わってくる爆発の音と徐々に上がっていく温度、果たしてそんな状況でまともに判断できるのだろうか。

 必死に盾を掲げ、凍結で防いだとしても流れる汗と疲労感は拭い去れるものではない。


 長い、一秒一秒が刻まれていく。


 それでも耐えられたのは、サーチェスの背後から奇襲する仲間を信じていたからだ。気付かれないうちにサーチェスの背中に手を触れて、リーナフェルトはありったけの力を込めて叫んだ。

「凍れ!」

 自身の結晶石、そしてサーチェス自身の身体を構成する結晶石が作用し、巨大な氷の柱がサーチェスを飲み込んだ。


「はぁ……はあっ、」

 張り詰めた緊張が解け、リーナフェルトは膝から崩れ落ちる。生き残った仲間たちがリーナフェルトに駆け寄り、背負い上げる。


 そこにあったのは安堵と……本当に終わったのかという一抹の不安だった。


 パァン!


 銃声が一つ響く。

 リーナフェルトの脚が撃ち抜かれ、言葉にならない悲鳴が上がる。背後を振り返ると、氷漬けにされたサーチェスともう一人、サーチェスが立っていた。


「さあ、ここからどうする。万事休すというやつだ」

 拾った銃をつまらなさそうに捨てて、サーチェスの背後から無数の手が再び湧き上がる。


 仲間たちはリーナフェルトを背負っている必死に走るが、身体にかけられた負荷のせいで一歩が重い。あらゆるものを捨てれば、命だけは助かるかもしれない。無数の手は急ぐことなく、じっくりと近づいてくるだけ。


「……」

 その沈黙は、葛藤の中で心を軋ませる。

「私を、降ろして……足止めしてみせるから」

 仲間の背中から飛び降りて、その血が流れる片足を引きずりながら仲間たちが前へ進むことを促した。


 仲間たちは何も語らず、振り返ることなく前へと進んでいく。


「随分と簡単に諦めるのだな。もっと時間を与えるつもりだったが」

「本当に、悪趣味。人の信頼関係に罅を入れようとするのは、貴方にその経験がないからじゃないの? 大切に思うなら、人の思いに共感できないはずがない。こんなむごいことをしようとは思わないでしょ」


「そう思うか。だが、生憎と私はもう人ではない。それに、こうも考えられないか? 貴様らの苦しみは一瞬、だがそのお陰で真実の一端が解明されるのならその命にも価値があると」

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