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境界:ジェネラルブラッド  作者: 徘徊猫
濁りえのキャンバス

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盤面の上

 硝煙の匂いが漂い、砂塵が景色を掻き消していく。轟音、血の味、突き刺すような痛み。瓦礫を背にして、ミシェルは戦場を駆け抜けた。

(弾も…僅かか。誤算だったのは、あれだけ特注品だってことだね)

 残された弾を装填しながら、何度も撃ち続けて貫けなかった装甲を思い返す。こっちはダメージを与えられず、相手はあの重量から繰り出される一撃は、バリアでも防ぐことはできない。おまけに、操縦技術も低くはなく同士討ちを誘うことも難しい。


(囲まれてきた……もう保たない)

 首領以外の武装装甲にも銃弾の効き目は悪い。バリアの残量もあと僅か、撤退するには今しかない。


「まだ、抗うのか?」

 じりじりと首領の武装装甲が距離を詰めてくる。周囲の兵士たちがミシェルを逃さぬように囲い込み、銃口をミシェルに集中させた。


 ミシェルは銃を地面に置いて、両手を上げる。

「勘弁して。私は普通の女の子なんだから、そんな怖い顔で見ないで」

 それでも、余裕のある笑みを崩さない。


「敵とはいえ、お前は市長だ。わざわざ殺す必要はないだろう。拘束する」

 首領が兵士たちに指示を出すと、兵士たちは納得のいかない表情をしながらも、ミシェルを紐で縛ろうと近づいてきた。ミシェルはすんなりと背中を向けて、手首を縛られた。

「ちょっと、女の子なんだからもっと丁重に扱ってほしいな。さもないと──」


 バリアを発生させていた携帯装置を兵士が拘束しようとした弾みに懐から地面へと落ちた。カッ、と眩い光を放った瞬間に、ミシェルは兵士たちを振り切り市庁舎の方へと走り始める。兵士たちの間には動揺が広がっていたが、それでもすぐに立て直してミシェルに銃口が向けられる。


 銃弾は間違いなく、ミシェルが市庁舎に辿り着くよりも先に胸を貫くだろう。一発の弾丸が、ミシェルを狙って発射された。それはみるみると距離を詰めていき……突如、地面がせり上がり銃弾を防ぐ。


 それだけではない。

 足元が大きく揺れて、次々と奇妙な光を纏った結晶が地面の下から伸びてくる。砂煙が宙を舞い、地響きが鳴る場所では戦場の音すらも掻き消した。

 結晶は留まることを知らず伸び続け、ビル一つを超える大きさまで成長していた。


 *


(これは、結晶石か……なんと無茶なことを)

 首領はそれに触れようとしたが、バチッと何かがそれを遮った。


 地下にある結晶石の地脈を無理やり地表まで引っ張り出して、それを障害物にミシェルは既に市庁舎まで退いていた。ただ、あのバリアを失ったミシェルが、同じように戦うことはできない。


(ただ、こちらも有利というわけではない)

 幸いにも、この結晶石によって兵士が負傷することはなかった。ただし、多くの兵士が足止めされ、その間に戦線を立て直すだろう。時間を稼がれる。

 この戦いにおいて、首領側は早期に決着をつけなければならなかった。複雑な指揮系統、利害関係、正規兵より劣った兵力といった問題を抱えているため、早期決戦以外に勝利を得られる手立てはない。


 もし、ここに露出した結晶石のエネルギーを使えば市庁舎を丸ごと破壊するほどの爆発すら引き起こせたのかもしれない。なぜなら、この都市全体を繋ぐエネルギーの網そのものだ。


(何があろうと、やることは変わらないが)

 既に己の手を血で汚したのなら、止まることなどできはしない。鋼鉄の装甲で無理矢理結晶石の障壁を打ち破り、首領は戦場へと戻ってきた。


 しかし、一人の青年がその前途に立ち塞がる。

 ヒスイが、戦場に現れた。

「止まってくれ。これ以上、無意味に血を流す必要はないはずだ」

 無意識のうちに、首領の手に力がこもる。

 首領はヒスイに、遠慮なく鋼鉄の拳を叩きつけた。それを、ヒスイは正面から受け止める。心臓から流れる輝きを宿して。


 首領は装甲に取り付けられた銃口から弾を放ち、砂煙があたりを包み込むが、背後からヒスイが現れ痛烈な一撃を放った。表層の装甲が切断され、剥き出しになった機構から火花が散る。


「ふん、そこまでじゃ暴徒ども。撃てぇぇっ!」

 別の方では、外から突き進むように老人先陣を切り、市庁舎に向けて前線を駆け抜けていた。


「我ら昔日大隊、この身で防衛線を引く者。だが、貴様らが我らに銃を向けるならば、最後までかかってくるが良い。歴戦の兵士たちに立ち向かう勇気のあるものから前に出よ!」

 武装装甲に火力が浴びせられ、一つ、一つと沈黙していく。


「これでも、まだ続けるつもりか」

 ヒスイが首領を説得しようとするが、首領は何も答えることなく拳を振るい続ける。


「首領! もうやめて!」

 その言葉に、首領の動きが止まった。

 声のしたほうを向くと、そこにはキマイラを抱えたシェイラの姿があった。

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