虚実証明
戦火はまるで一つのドラマ。
放たれた一つの弾丸から連鎖反応を繰り返すように人々は大きな荒波へと飲まれていく。
その波から逃れられる人など、本当にいるのだろうか?
「『人には無限の可能性がある』。この言葉は、目を眩ませるほど美しい虚構だと思わない? だって、本当に別人になれる機会があったとして、君はそれまでの自分を捨てられるのかな」
セツナは平然と気にした様子もなく語りかける。
シェイラは慌てて窓から外の様子を確認すると、何処からか煙が立ち上っていた。
「…なにこれ」
人々が混乱して逃げ惑っているのが上からでもよく見て取れた。何かが起きた。理解したくなかったが、シェイラは頭の中で誰がこんなことをしたのか分かっていた。
「やっぱり、君は何も知らされてなかったんだね。まるで、塔に閉じ込められたお姫様みたいに。君は何も知らない。だって、君はその目で彼らが何を経験したのかを見ていなかった。さあ、これはチャンスだと思わない? もう、偽りのベールは剥がれたんだから」
「……教えて、これはサーチェスがやったの?」
自語りの好きなサーチェスの話をよく聞いていたシェイラにとって、それはあり得る可能性の一つだった。どんな経緯で知者を恨むようになったのか、そこまで語ることはなくても滲み出す嫉妬や憎しみを露わにしていた。シェイラはサーチェスが時折見せる狂気を、首領がブレーキ役として止めていたのを何度も見ていた。
「当たり。お陰で、暴動は最高潮に達してる。誰にも簡単には止められないくらいにね」
「首領は止めなかったの?!」
シェイラはセツナに詰め寄るが、セツナは飄々とした様子で答える。
「流石に、彼だけでこんなに大きな騒ぎを起こせない。もちろん、君の大好きな首領も仲間を率いて前線に立ってる。君の前では絶対に見せない裏の顔、ってやつかな」
セツナはヒスイの家に置いてきたはずのナイフを、シェイラに手渡した。
「本当は君にこれを返しに来ただけ。自分の命は自分で守りなよ。そうだね、きっとその子が行くべきところへ案内してくれるはず」
そう言って、セツナはキマイラを指差す。シェイラにはその意味が分からなかったが、セツナはそれを細かく説明するつもりはないようだった。
「私を、連れ戻しに来たんじゃないの?」
「その必要がないから」
セツナは心からそう思っているかのように軽く答える。シェイラには余計にセツナという人間が何を考えているのか分からなくなった。
「君がその理由を理解する必要もない。……これは、誰の記憶にも残らない些細な約束だから」
一瞬見せたセツナの情感も、その目が何を映したのかも、シェイラには見当がつかない。
「そもそも、自分で撒いた種は他人に託すべきだって思わない? うちにもやることがあるの。それこそ、今までの努力がパーになっちゃうくらいの爆弾を処理しないと」
まるで、さっきの一言は幻であるかのようにセツナはいい加減な態度に戻っていた。
「君がどうするのか、私は興味ない。でも、君が真偽を確かめたいのなら、行くべきだよ」
*
シェイラは戦闘に巻き込まれて壊れていく街を走り出した。
(こんなの聞いてない! こんな…)
まるで憂さ晴らしでもするかのように、暴徒たちは無差別に人々を襲っている。それを守ろうと、一部の警官が戦っていたりするのを遠巻きに確認しながら、シェイラは遮蔽物を盾に道を切り抜けていく。
(これが、本当に首領のやりたかったことなの?)
シェイラの前ではそんな姿、一度も見せなかった。
罪を被るなら、シェイラも背負いたいと思っていた。でも、それは誰かを傷つけるだけのためではない。みんなが救われるなら、その結果を背負うことも受け入れていただけ。
(……どこにいるの?)
セツナが言ったように、キマイラが先導してくれていた。まるで、何かに導かれているように。
何が本当で、何が嘘か。
全てが混ざり合う混沌の中で、シェイラは真実を求めて戦場に足を踏み入れた。




