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四星:ジェネラルブラッド  作者: 徘徊猫


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涙の中で

 『みなさーん、こんセツ〜! 愛し愛されあっという間に急上昇! 超人気美少女のセツナだよ〜!』

 画面のなかで高校生くらいの少女が明るく挨拶する。

 『今日は何をしよっかぁ〜、何でもいいけど楽しいことをしたいよねぇ。あっ、そうだ。家の目の前に生薬屋さんがあってねぇ、なぜかそこでは生薬の大食い大会が開かれてるんだよ。……腹くださないのかなぁ』


 「何を見てるんだ?」

 先ほどからパソコンで【ME WAY】という動画サイトを見ているコハクを珍しく思い、ヒスイは聞いてみることにした。

 「うーん、この人どっかで見たことあるような気がするんだよね……。最近話題らしくて、見た目もいいからファッション雑誌にも出てたんだよ。だから気になってね」


 『え、鉛筆細めさん五万のお恵みあんがとぉ。なになに、巷で流行している【清浄水ーMaximumー】を飲んでみてほしい? ん〜、あれ好きじゃないんだよねぇ。というか、名前が尖りすぎだよね。ここ最近は尖ることが流行なの? なら、うちももっと尖っていかないとね〜』


 「……」

 「大丈夫、言いたいことは分かるから」

 コハクはパソコンを閉じて、体を伸ばした。

 「ん〜、やっぱりアタシは動く方が自分に合ってる。さて、今日はイロハが来る日だったよね。アタシは仕事があるから、途中で交流するね」

 コハクは近くにおいていた剣を手に取り、外へと出ていく。ヒスイはしばらくセツナという配信者が映されていたパソコンを見たあと、再び料理に戻り始めた。


 *


 「……」

 イロハはいつも通りヒスイの家へと向かっていると、広告が一人の人間で染まっていることに唖然としていた。

 「セツナ?」

 そのうちの一つのポスターを見て、首を傾げる。自分は見落としていたのだろうか? まるで紅葉のように途端に世界を塗り替えたセツナという少女に、イロハは少し恐怖を感じた。そんな疑問を考えながら、異常なほどにあらゆるところに貼られた彼女の顔を確認する。

 そんなふうに注意散漫だったからだろう。目の前から来る人を避けられず、ぶつかってしまう。

 「わぁっ!」

 「いたっ……あっ、ごめんなさい。大丈夫でしたか?」

 イロハは自身が尻餅をついたというのに、すぐ立ち上がって目の前の人物の顔を確認する。


 「セツナ……さん?」


 *


 「うーん、年下に世話してもらうのは……なんか申し訳ないね」

 落ち着いた仕草で、配信とは違う雰囲気を醸し出すセツナはどこにでもいるお姉さんのように振る舞う。

 「えっと、その……申し訳ないのですが、セツナさんが何をされている方なのか知らなくて……何か予定を狂わせていませんか?」

 転んで膝を擦りむいたイロハのために、近くの公園でセツナはイロハの傷を洗浄した。その後、イロハが自然と取り出した絆創膏の用意周到さに感心しながら。


 「子どもは気にしなくていいよ。そのくらいの度量はあるつもりだから。ま、馬鹿を演じるのも疲れるし」

 「馬鹿を、演じる?」

 オウム返しのようにイロハは口にしたが、セツナは笑うだけだった。

 「世の中ってままならないよね。どんなに多くの人に見られても、すぐに別のものに覆い隠されちゃう。それに、覚えられていたとしてもそれが“真実”とは限らないし」

 少し何かを偲ぶような様子を見せたあと、次の瞬間には笑顔を見せた。


 「あははっ、切り替えるのが早いのがうちの強みだから。さっきの言葉は忘れて構わないよ。そうだ、君はこれからどこに行くの?」

 「えっと……私、治療院にいて、これから診察をしに行くんです」

 行き先を聞いてどうするのだろう、とイロハは思った。

 「そっちに行くなら同じ方向だね、一緒に途中まで行かない?」

 「……でも、セツナさんは有名人なんですよね? 通りを進んでも大丈夫ですか?」

 そう言うと、おもむろにセツナはサングラスを掛けた。

 「それで大丈夫だよ! さ、行こう」


 「本当に、何もありませんでしたね」

 道行く人々は不思議なほどにセツナに気付かない。

 「ま、意外とそんなものだよ」

 イロハは釈然としない不自然さを感じながら、ヒスイの家を目指していた。目の前に黒い服を着た男が現れるまでは。


 「ターゲット、確認」

 「! セツナさん、逃げて!」

 イロハは混乱していた。同時に理解していた。

 このままでは無関係なセツナを巻き込むことになると。セツナの手を引いて、男から引き離す。足が自然と男の反対側へ動くが、そちらにも黒い服を着た男がいた。周囲は騒然としているが、イロハにとってその声はどんどん遠いものへとなっていく。


 記憶がフラッシュバックしてくる。冷たい地下室、何も見えない暗闇、すすり泣く声。その全てを思い出して、歯がかちかちと鳴り、目から涙が溢れる。

 目の前からどう逃れればいいのだろう。立ち竦んで、動けない。男に掴まれた手が、重い金属の枷のように自由を奪う。

 「変態! 白昼堂々誘拐? 絶対、あんたらの顔、晒してやるんだから!」

 男たちに端末のレンズを向けながら、セツナは叫ぶ。

 「ちっ、面倒だな。そいつも連れて行け」

 「あっ…」

 「うちに触んなっ」

 ガンッ、と頭を打ち据えられて、セツナは倒れる。

 「ああっ、」

 なんで、どうして。

 「さっさと乗せろ、行くぞ」

 「あぁぁぁぁあっ」

 私のせいで…


 無理やり車に乗せられて、セツナの安否も分からないまま猿轡と目隠しをさせられた。

 暗闇の中でイロハは考えていた。

 (嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……)

 目に映る全てを認めたくなかった。

 心が軋み、悲鳴を上げる。

 (でも、本当は……これが真実じゃないの? ただ、みんなが隠してくれていただけで……)

 幸せだった記憶が徐々に遠くへと消えてゆき、かつての暗闇だけが相変わらずそこにある。


 けれど、イロハは残された幸福の欠片を大切に胸へとしまい込む。それで涙が止まることがなくても、暗闇の中で自身を抱きしめながら。

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