戦場に立つ
「私にやらせて。私なら、警戒されずに近づけるはずだよ」
「私も、仇をうちたいから…」
*
首領はシェイラの様子を思い返しながら、目の前で起きている戦いに意識を傾けた。
「誰だ? 俺の合図よりも先に攻撃したのは」
サーチェスが開発した秘匿通信を利用して、この前線にいる指揮官に通話する。
『何故、一般人の指図を聞かねばならない? いいか、勘違いするなよ。あくまでこれは共同戦線であって、お前がこの団体の代表であってリーダーじゃない。判断は俺たちがする』
そう言って、旧軍時代に組織から造反した兵士は吐き捨てた。
「……出遅れたが、お前たち。敵を蹴散らすぞ」
その言葉に十数人の仲間が返事をする。
(チームワークなど、ないようなものだ。なら、早期に決着をつけるしかない)
退却など、戦いの火蓋が切られた瞬間から選択肢から捨てられた。勝つか、死ぬか。二つに一つだ。
造反した兵士たちは旧軍時代に持ち越してきた古い装備しか持っていない。しかし、古い装備であっても、人を殺すのには十分な威力がある。結局、戦いは数だ。
「知者のバリアか……」
とはいえ、あちらから一方的に撃たれているのが現状だ。アレを破壊しない限り、時間を稼がれて一方的にやられる。
なら、それを上回る破壊力があればいい。
サーチェスが開発した爆弾は火薬を必要としない。特殊な仕組みによって爆発を生み出す。そして、その破壊力は周囲80メートル、テニスコート程度の大きさなら更地にできる。
それがバリアとぶつかった瞬間、ドオンッ、と轟音ともに激しい閃光を放ち、バリアにヒビが入る。
「続けろ。あのバリアが割れ次第、俺たちは武装装甲で先端を切り開く」
サーチェスが用意したのは爆弾だけではない。
一般人であっても、戦えるようになるには技能よりもスペックで上回ったほうが早い。そうして、武装装甲と名付けられた人よりも一回り大きい程度のロボットに搭乗し、透明のバリアが破られた瞬間に、首領は仲間たちと最前線へと突っ込んだ。
*
「凄いものを用意してきた」
一方で、ミシェルは激しい音が響き渡る戦場で笑みを見せていた。
「…市長、感心してる場合じゃないでしょう」
警備員の一人が、呆れたように呟く。
「流石に、勝ち筋は考えてあるんだ、って思ったから。さて、そろそろ激化するよ。準備して」
「それは分かっていますが、市長…何で銃を?」
警備員はミシェルがスカートの下から骨董品のような装飾されたライフルを取り出したのを見て、唖然とした。
「そんなの、戦うからに決まってるよ? 武器なんて、必要でもなければ握らないんだから」
「…まさか、とは思いますが」
「突っ込もう。君たちは援護して」
「ちょっと、待っ──!」
ミシェルはバリアが破れた瞬間、一陣の風のように前線へと駆け抜けた。空を羽ばたく鳥のように自由に、狙いを定めた猛禽のように鋭く、障害物を乗り越えて敵へと接近していく。
「え─?」
「いち、」
至近距離で兵士が一人心臓を撃ち抜かれた。
「にぃ、」
「なっ─」
その近くにいた兵士の背後へ瞬時に回り込み、先ほどの兵士から奪ったナイフで頸動脈を断ち切る。
「撃てっ──」
「さん!」
状況を把握していなさそうな指揮官の頭に血濡れたナイフを投げつけた。またたく間に行われた惨事に、誰も頭がついていかない。ただ、首元にひんやりとした感覚を感じていた。
(あのロボはどうしよっか。銃弾、届くかな? …試してみればいいか)
ミシェルは立ち止まらず、混乱しているうちに目の当たりにした敵を確実に仕留めていた。時折、死界からミシェルを撃とうとした兵士は、庁舎からの狙撃によって阻まれる。
とはいえ、これは相手が混乱しているから通じたものであって、攻撃の多くがミシェルへと向いてくる。
ミシェルはそれを、庁舎を守っていたものと同じバリアによって身を守っていた。
(やっぱり軍人だ。二度は通用しない…でも、私を無視できない)
自分一人に集中すればするほど、庁舎の攻略に時間がかかる。だからこそ、この特攻にも意味がある。
ただ、あのロボだけは話が別だ。あのままでは、ミシェルを無視してでも庁舎へ一方的に攻撃するだろう。そして、それに気を取られている隙に支援の望めない中では、身軽なミシェルでも簡単に囲まれてしまう。隙を見計らって、ロボに一発撃ってみるが、大したダメージは与えられず弾かれてしまった。
(ギリギリまで耐えて、離脱する? ……できるけど、その後持ち堪えられるかな…)
ミシェルは特別にブリューゲルに用意させた結晶石のエネルギーがどれほど残っているかを確認した。これがなければ、バリアを張ることはできなくなる。
そうなれば、簡単に弾丸が体を貫き、命を奪うだろう。それに対して恐れを感じないわけではない。緊張感もミシェルは感じていた。
だからこそ、闘争の中で弾け飛ぶようにミシェルは疾走する。
今の力量を噛み締め、より遠くにある理想へと手を伸ばすために。
ミシェルは武装装甲に至近距離まで近寄り、至近距離でコックピットがあるであろう場所に目掛けて撃ち込む。金属がぶつかり合う音、響き渡る排莢音。目の前で立ち込める火薬の煙。何度も同じ場所を撃たれたことで分厚い装甲もやっと貫通した。
武装装甲を盾にしていたため、銃弾からは守られていたが、ミシェルの背後から仲間の武装装甲が鉄拳を振り下ろす。
「素人だね」
放たれた拳圧で髪がなびく。
ミシェルは舞う羽のようにその鉄拳から逃れて、行き場を失った拳は味方へと炸裂した。銃よりも強烈な一撃によって、武装装甲が一体沈黙する。
*
その少女の戦い方は圧巻なものだった。
不利を覆して勝利を収める手腕、自分の命を仲間に預けて戦場を駆け回る度量、そのために積み上げてきた経験を最大限活かして戦っている。
(侮ってはいけない、戦士だったか…)
首領は動揺する仲間を諌めて、前に出る。
「君がリーダー?」
「そうだ。…例え、市長であろうが、子どもであろうが、俺はこの道を進むためにお前を倒す。それで、命を奪うことと引き換えになろうとも」
ミシェルはその言葉にとても驚いた表情をした。
話しているうちに、ミシェルの背後から弾丸が放たれるがバリアによって防いだ。
「卑怯と思え。お前を殺すことに、俺は躊躇いはしない」
ミシェルは呆れるように呟いた。
「……何度も言ってるよ、ここは戦場だって。卑怯も何もない。勝者は、最後まで立っている人だから」




