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境界:ジェネラルブラッド  作者: 徘徊猫
濁りえのキャンバス

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迫りくる崩落の足音

(楽しいことなんてまやかしに過ぎなくて、現実は幻想を打ち壊して、気付いたら…とっくに夢から覚めてるんだ)

 シェイラは何ともいえない虚無感に襲われていた。


 イロハとの出会いは、シェイラの心を満たしてくれた。それまでが不満だったわけでもないが、まるで色が付いたように鮮やかに染め上げられて、同世代の子どもとすれ違う度に、未来が美しいものだと心の底から湧き出るような輝きを秘めていた。


 今までは、どうでもよかったのに。


「ほら、どうだ? 美しくなったと思わないか?」

 サーチェスが改良したキマイラを持って何かを語っているが一つも耳には入らない。彼は昔から、自分の力をひけらかして自慢することが好きだった。適当に相槌を打てば、それで満足してくれる。


「でも、外装パーツは元に戻して。それ、可愛くない」

 いつもサーチェスは無駄に付け足したがる。

 それこそ、自分の作るものは最高の品だと見せるために。

「……全く、君とは本当に美的感覚が合わないね。だが、仕方のないことだ。これは、あくまでも君のものなのだからね。分かった、外装は外しておこう」

 サーチェスは少し不満げな顔をしたが、すぐに表情を戻した。

「ものじゃない、キマイラ」

「ふむ、そう愛着を持ってくれるのは嬉しいが…そういえば、お友達とは別れを済ませたのか? 暫くは会えないと覚悟したほうがいい」

「友達のいないサーチェスに言われたくない」

「これは手厳しいな。だが、友など対等な関係でしか成り立たない。そもそも、理解者など求めるつもりもない」


「念の為、ナイフを付けて置いた。不意打ちでなら、敵にも致命傷を与えられるだろう。必要とも思えないがね。なにせ、君は首領にべったりなのだから」

「恩のある人を敬うのが悪いとでも? サーチェスも言ってたよ。年上は敬えって」

 シェイラの生意気な物言いに、サーチェスは表面上は反応せずに答え返す。


「彼に人徳とカリスマがあるのは認めるが、いかんせん推進力が足りない。このままでは、悪政を打倒することすらできやしない」

「あの人のことを悪く言わないで…!」

 シェイラはキマイラからナイフを取り出して、サーチェスの首元に突きつける。当のサーチェスは全く気にした様子もない。


「まるで親子だな、それもいいだろう。だが、事実だ。この十一年……我々は耐え忍んできた。だというのに、彼らは何も返さなかった。日々傷口を抉られた我々に忘却などできるはずもない。もう、我慢の限界というものなのだよ」

 まるで無知な子どもに諭すように、サーチェスは語りかける。


「市長が何をした? 何もしていないではないか! アレは私たちをここに連れてきたのは労働力として、数としてしか見ていないからだろう! あまつさえ、次代の市長は娘だと? バカバカしい、既得権益者の傀儡ではないか」


「知者が何をした? アイツは制度を作り、法を作り、秩序を作ったが格差は広がるばかり! 下層の者は己の命をとして賢者の石、俗に言う結晶石を掘り出し、都市の命脈──ありとあらゆるインフラのための犠牲にしている! それを享受するのは誰だ? 当然、上にのさばる者たちだ。労働者の汗と血に対する報酬は、上層の者が口にするワインの一滴にも満たないというのに」


「守護者が何を守った? 何も守れてはいない。その尊い犠牲と引き換えに守られたのは幸運な一部だ。だが、それによって何を隔絶した? そう、お前の両親だ。シェイラ。守護者が結界を張らなければ、結界の外に取り残されることはなかった。瘴気に汚染されていたとしても、助かったのかもしれないのにな」

「……っ」

 シェイラの手に力が入る。

 声高に語るサーチェスの主張に賛同するつもりはないが、シェイラは心の中にある激情を否定できなかった。


「許してはならない。それは彼らの罪だ。もし世の中が公正だというのなら、どうして平凡な彼らは助からなかった? 無辜の民は、汚い蛇たちよりも優先されるのか?」


「その辺にしておけ、サーチェス」

 それを遮ったのは、少し老けている大きな男だった。

「あぁ、首領(ボス)もう戻ってきたのか。なに、私はただ世の習いを教えていただけだ。何も曲げてなどいない。事実だろう?」


 首領はサーチェスを無視して、シェイラへと視線を向けた。

「……。シェイラ、お前は隠れ家にいろ。あそこなら、何があろうと安全だろう」

「ねえ、首領。私も手伝えることは?」

「ない。お前は、戦いが好きなわけでもないだろう。なら、戦う必要はない。一人増えたところで、何かが変わるわけではないのだから」


 首領の懐から一枚の写真が落ちる。

 シェイラは素早く動いてそれを拾った。

「なら、これは? 標的なんだよね。私なら、誘い出して油断した隙に──」

 首領はその紙をシェイラから奪い取った。

「シェイラ、お前は何もしなくていい。そもそも、お前は訓練を置いてキマイラと遊んでいただろう」

「私を舐めないでよ。あんな簡単なの、やる必要がないからやらなかったんだよ。ほら、貸して」


 首領はシェイラが奪い取ろうとする写真を届かないように高くに腕を上げた。その手から掠め取ろうと、シェイラは首領に飛びついてその大きな体をよじ登るが、手に届きそうになったときにはもう片方の手に持ち替えて遠ざける。


 それを、サーチェスが横から奪い取った。

「……なるほど、これを隠すのは少し非道というものではないか? 少なくとも、シェイラは知るべきだろう。誰もが、知る権利がある」


 サーチェスはその写真をシェイラへ手渡す。

「え?」

 シェイラはそれを見て、暫く言葉を口にできなかった。


「因縁の相手ということなのだから。ヒスイ、守護者の弟子か。我々の邪魔者であることに違いはない」

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