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境界:ジェネラルブラッド  作者: 徘徊猫
濁りえのキャンバス

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39/67

残響

 厳正な雰囲気を纏う裁判所で、一人の男が大理石の上で歩く音を響かせながら進んでいく。

 その後ろを、一人の女性が少し早歩き目に追いかける。はしたなくないように、少し身嗜みを整えながら。


「こほん、ブリューゲル議長…! 丁度会えましたね」

 女性の声に、ブリューゲルは振り返る。

「ふむ、ノエル君か。ご機嫌よう。私に何か?」

「いえ…その、一緒に食事でもどうですか。色々とご教授していただきたくて…!」

 目の前で不安そうな目をしているノエルに、ブリューゲルは緊張をしているのだと思って安心させるように頷いた。


「私などの意見が参考になるなら、ご一緒しよう。君には私も期待している。その成長に役立てるのなら願ってもいないことだ」

「……やった!」

 ノエルは小声で呟き、心の中で小さなガッツポーズをした。ブリューゲルはノエルを伴って、裁判所から出ようと再び歩みを進め始める。


「とはいえ、私から提供できるのはあくまで私見だ。その解釈は君に委ねられていることを忘れないでほしい」

「もちろんです。人を裁く責任を、誰かに任せることなんてできませんから」

 裁判所の出口に近づくと、徐々に外に向かうにつれて騒ぎが大きくなってきた。

 どうやって入ってきたのだろうか?

 時折あるとはいえ、それよりも追い詰められた形相をしている。なにか、身の竦むような何かを感じた。


「どうしたんでしょう…? 別のところから出ましょうか?」

「いや──」

 警備員が入口で詰め寄る人々を抑えている様子を見ながら、ブリューゲルはその中に紛れている人物と視線が合った。


 その瞬間、ブリューゲルは何かを察知して、ノエルの目の前から消えた。

 ノエルが驚いて目を開いた瞬間には、ブリューゲルが一人の男の前まで近づいていた。


 こちらを増悪とも嗜虐的とも見える視線、歪んだ笑み、まるで喉から手が出るほど狂気に満ちた男が、バッ、と外套の下に隠していた機械を晒しだす。

 ブリューゲルがそれに触れようとして、それよりも早く男が手に握っていたボタンを押した。


「歪められた世界を、あるべき一つに!」

 意識がいつの間にか飛んでいた。

 痛い。


 何かを認識するのに、まず来たのは痛覚だ。


 耳鳴りが酷い。


 耳は暫くの間、全く使い物にならない。


 煙に包まれて全く見えない。

 ふらふらとする身体を、咄嗟に手で支える。


 カッ、と閃光に包まれたかと思うと、爆発が巻き起きた。周囲の人々を巻き込んで、破壊的な衝撃波が一気に吹き抜け、轟音が耳をつんざき、誰も何が起こったのか理解できなかった。


 こほっこほっ、と受けた衝撃でノエルは痛みを感じつつも、ドクドクと鼓動する心臓を落ち着けた。


 砂塵の中で、倒れたノエルは傷一つないことに安堵しつつ、周囲を見渡す。 ……不思議と、火薬の匂いはせず舞い散った砂埃が入らないようにハンカチで口元を押さえた。

 幸いにも、爆発によって建物に致命的な一撃が加わることはなかったようだ。


 だが、その中心部にいた人物はどうだろうか?

「──え?」

 最初、それはシルエットしか見えなかった。

 それでも、それが五体満足でないことが分かってしまった。そのショックで、ノエルは足元に崩れ落ちる。

「いっ、いやぁぁぁぁぁっ?!?!」

 悲鳴が都市の中心で響き渡る。


 その悲鳴とともに、飾られていた天秤が地面へと落ちて砕け散った。


 知者にして裁定官、ブリューゲル・フォルクハイムは無残にも四肢が断裂した姿で発見された。


 *


『──緊急速報です! 爆発事件が起きたようで、場所は……裁判所?! い、一体何が起こっているのでしょう!』

 テレビの中でアナウンサーが混乱した様子で話している。そのテレビを切って、男は不可解そうな表情を浮かべた。


「ん? おかしいな、あの程度のはずはない。それとも、流石は知者というべきか? 何かしたのかもしれないな。ハハハッ、だがアイツは死んだ! もういない。私を見下すアイツはッ!」

 サーチェスは感情の昂りを抑えられず、笑い声を上げる。狂気的な熱気に包まれ、身震いを抑えきれない。

「覆そう、狂った世界を。奪い返そう、あるべき姿を」

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