煌めきに触れて その3
シェイラとイロハはそうして時々一緒に外出するようになった。シェイラは最初こそあまり表情を見せなかったが、イロハと関わるうちに自然と打ち解けて、時折笑顔を見せるようになった。
記憶を不意に思い返しては、自然と口元が緩むほどに。
「随分と、楽しそうだな。お友達ができて浮かれてるのか?」
その空気も、一人の男の声で夢から覚めるように立ち消えた。
その男、サーチェスはシェイラを観察するように見つめて、何かに気付いたのか笑い声を上げた。
「何、その気持ち悪い言い方…」
「気持ち悪い? ハハハッ、失礼じゃないかシェイラ。年上は敬うべきものだろう」
サーチェスは値踏みするような視線でシェイラを見つめる。シェイラは昔からその視線が嫌いだった。
「…で、私に何のよう?」
「用がなければ話してはいけないのか? 私たちは家族のようなものだろう?」
「で?」
シェイラが話を先に促すと、残念そうな素振りを見せてサーチェスはため息をついた。
「はぁ、大した用事でもない。時は迫っている。お友達とのお遊びにもかまけて居られなくなるだろう」
「……」
「どうした? 心配するな。新世界のためには、その程度は一瞬のことだ……この都市が強いた犠牲に比べれば可愛いものだよ」
おっと、と忘れた用事を思い出したように、サーチェスはやっと用件を話し始めた。
「そうだな、お前のキマイラを貸してくれ」
キマイラとは、シェイラが名付けた機械のペットだった。今は稼働するためのエネルギーを節約させるために休眠させ、シェイラのバックで眠っていた。
「何のために?」
「大したことじゃないさ。この都市からエネルギーをくすねられるようにするだけのこと。あのブリューゲルの生み出した賢者の石───忌々しいことに、アレを乗っ取ることはできなかったが、これでお前も戦える。どうだ? 魅力的だろう?」
シェイラは無言でずっと修理していた“親友”を取り出した。
「安心しろ。すぐに返してやるさ、ハハハッ。首領によろしく伝えておいてくれ」
そう言って、渡したキマイラを持ってサーチェスは去っていく。
それを見送ったシェイラは、何かがぽっかり空いたような空虚さに身を包まれていた。
*
「──シェイラ……、シェイラちゃん!」
「…え、なんだっけ?」
ぼーっとしていると、イロハが視界に入って呼びかけていた。大したことじゃないですよ、とイロハは呟く。
「珍しいですね。考え事ですか?」
「別に…何も」
沈んだ気持ちで公園のベンチに二人は座り、夕焼けの沈む様子を眺めていた。
「ごめん。暫くしたら、遊べないかもしれない」
「用事ですか?」
イロハが素直に尋ねると、シェイラは
「色々とだよ。……よく分からないけど、父みたいな人かな。その人が、忙しくなってね。私、育ててくれた恩義とかしっかり返したいからさ」
俯いたまま顔を合わせないシェイラに、イロハは袖を数度引っ張って意識を向けさせた。
「それは残念ですね。でも、また遊べますよ。約束です」
「そうだね……きっと、また会えるよ」
いろはの言葉に、シェイラは少し目の輝きを取り戻した。
「楽しいことって、すぐに終わっちゃいますけど…『生きる限り続いていく』って、フィル……えっと、お母様から教えてもらいましたから!」
「ふうん、イロハにはお母さんがいたんだ。いつもそこに従者みたいのがいたから、継母とかそういうのかなって…」
「そんな、童話じゃないんですから…あと、従者じゃないですから。ヒスイさ〜ん、来てください!」
離れたところで保護者代わりに来ていたヒスイが、二人の下へと戻ってきた。
「どうしたんだ? アイスクリーム屋さんならあっちにあったけれど」
「えっ?! どうしてアイスクリームの話になるんですか、違いますよ…。えっと、ヒスイさんをシェイラちゃんに紹介しようと思って」
イロハは不満を訴えるが、ヒスイは苦笑した。
「いや、最近イロハが食べてるところをみなくてね。だから、我慢してるのかと思って…」
「そうですね、最近はあまり食べることはなくなりました。昔よりも、楽しいことが多いからかもしれませんね」
そう言って、イロハは無邪気に笑う。
「ふーん、仲いいんだ」
そうやって会話してる様子を見て、ぽつりとシェイラは呟いた。
「すみません、この人が─」
「さっき、思いっきり名前呼んでたけど。で、その人を呼んでどうするつもりなの?」
シェイラはヒスイを見て、ひ弱そうだなと感じた。
身近で大きな背中を見てきたからかもしれない。
彼の腕は確かにシェイラ自身よりも一回りも大きいかもしれないが、あまり頼りになりそうには思えない。
「紹介します!」
さっき聞いたって、という言葉を押し殺してシェイラは尋ねることにした。
「……それで?」
「ヒスイさんって凄いんですよ! 色々と美味しい料理が作れて! きっと気が合いますよ!」
「あぁ、うん。そうなんだ」
シェイラはどうでもよさそうに適当に返した。
(すごく目を輝かせてる…)
ヒスイを、まるで舞台に出てくるヒーローでも見るような目でイロハは見つめていた。
「それで、ですね。今日は一緒にご飯を食べに行きませんか? 私、思ったんです。もししばらく会えなくなってしまうのなら、それまでにもっとシェイラちゃんのことを知りたいって。だから、いっぱい私の大好きなものを教えますから、シェイラちゃんも教えてください!」
「それはいいけど、面白くないかもよ?」
「そんなことありません。だって、きっと楽しい時間になりますから!」




