煌めきに触れて その1
「ライブ、ですか?」
イロハは差し出された券をみながら、首を傾げる。
アリアはイロハの姉妹の遊び相手をしながら、事情を説明する。
「そう、友達から誘われたけど忙しくて。小さいところで、近くに遊べるとこもあった気がするし…興味あるなら行ってみても良いんじゃない? 誰か適当な人でも誘って」
イロハは近くにいた院長へと視線を向けるが、院長は首を振った。
「好きに誘うといい。だが、私は遠慮しておこう。体力が持たない…」
*
イロハは待ち合わせをしながら、緊張から落ち着かなかった。時間は間違っていないか、場所は間違っていないか、変に見られないか……頭のなかで何度も確認しても、そういった不安は拭えない。
そんなイロハの様子が、余計に周囲の視線を集めていたたまれない雰囲気になっていた。
そんな感情も、こちらに近づく影を見ればすぐに消えた。
「すまない、待たせたかな?」
「いえ、丁度時間通りですよ。ヒスイさん、コハクさん」
「誘ってくれてありがとね。にしても、アレは何?」
コハクは遠くからサングラスをかけ、くつろいでいる女性を指さした。
「院長さんです。…ライブは見ないらしいですけど、送迎をしてくれるって。よろしければ、帰りは一緒に帰りませんか?」
「そうね、見終わった後は特に用事もないし。ヒスイもそれでいいでしょ」
「そうだな」
ライブといっても、アングラな雰囲気のある場所で人々は好きなように居座って、誰かがステージに上がるたびに盛り上がっている。
「まるでこないだのパーティーみたいですね」
誰もが好きなように振る舞って、楽しそうな表情をしている。ただ、その空気に当てられたのか、イロハは少しずつ高揚感に目眩がした。
「少し離れた場所で休もうか?」
ヒスイの言葉に、イロハは頷いた。
二人で端の方にあるバーカウンターのような場所まで行くことにした。そこで冷たい飲み物を買って、ヒスイはイロハに渡した。
「すみません…あんまり、人が多いところは慣れてなくて」
「いや、俺も同じだ…。こういった熱気には弱いのかもしれないな」
イロハはもらった冷たい飲み物を頬に近づけて、冷たさを感じていた。ひんやりした冷たさが、心地良い。
*
暫く休憩すると、少し慣れてきて周囲を見渡すと、同じくらいの年齢の少女が音楽に耳も傾けず、つまらなさそうに手元で何かをいじっていた。
少し好奇心も湧いてきて、イロハは話しかけることにした。
「こんにちは、何をやっているんですか?」
「別に、何も」
近づいてみると、ギコギコと機械の音がする。
しかし、当の少女は無愛想に答えた。
暫くその様子を見ていると、不機嫌そうな視線がイロハに向けられる。
「あんたみたいな、良いとこそうな子が何のよう?」
「いえ。何をやってるのかなあと興味が湧いて…」
「あっそ」
それで興味をなくしたのか、少女は再び作業に戻った。よく見ると手元で機械を修理しているようだった。イロハは時間を忘れるくらいその様子を見ていた。周囲の喧騒も、聞こえないくらいに。
そして、少女がその手を止め、顔を上げると変わらず
「……あのさ、いつまでそうしてるの」
「あれ、もう終わったんですか?」
「見せ物じゃないんだけど」
少女は荷物を抱えると、少し離れた席へと移動した。イロハもそれについていく。
「ヒヨコか、何か?」
「可愛いですよね」
「そういう意味で言ったわけじゃないんだけど」
「暇なら何処か遊び場にでもいけば良いんじゃない? ここらへん、色々あるんだから」
「おすすめってありますか?」
「さあ? 適当に回って、楽しいところがあれば良いんじゃない? って、何で私の手を─」
イロハは少女の手を取って、飛び込むように外へと駆け出した。




