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境界:ジェネラルブラッド  作者: 徘徊猫
幕間

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30/59

祝賀会 その1

 イロハは何か見落としはないか、身だしなみはおかしくないかとそわそわした様子で二人を待っていた。


(ちゃんとやらなきゃ…!)


 治療院の玄関口、何重ものセキュリティパスの影から現れた姿を見つけた瞬間に、少し固くなりながらも練習した通りに笑顔を作り、招待したお客様を丁重に出迎える。


「ヒスイさん、コハクさん! 本日はっ、祝賀会にお越しいただきありがとうございます!」

(言えたぁ〜!)

 内心を抑えながらも、


「ありがとう、出迎えてくれたんだね。その衣装は以前見せてくれたものかな?」

 ヒスイの言葉に、イロハはこくりこくりと頷いた。


「へえ、洒落てる。アンタも着飾ったほうが良かったんじゃない?」

「遠慮するよ。そういうのは少しね…」

「えっと、二人ともお客様ですし、身内のパーティーですからそこまでしなくても…」


「冗談よ、冗談。出迎えありがとね、イロハ。アタシは適当に回ってくるから、コイツの案内を頼むわ」

 そう言って、コハクは一人でにパーティー会場へと消えていった。


「申し訳ないけど、一人でも案内してもらえるかな。君たちが用意したものを一つ一つ確かめてみたいから」

「良いんですよ。それぞれで楽しむのが一番ですから。案内も、一つの楽しみ方に過ぎないんです。でも、ヒスイさんを案内できて嬉しいです!」


「そう思ってくれると、お客様冥利に尽きる…とでも言えばいいかな。さあ、一緒に行こうか」


 *


 イロハがまず案内したのは、彼女の姉妹たちがカスタネットでする演奏会だった。一人一人が楽しそうにカスタネットを叩いている。周囲には数人の研究者たちが、普段と違いラフな格好でその様子を見て楽しんだり、演奏に参加してしゃがみながら一緒にカスタネットを叩いたりしていた。


 ただ、そこには意外な人物もいた。

「さっ、キミたちもやってみる?」

 アリアが姉妹たちに楽器の扱い方を教えていた。


「よっ、ヒスイ。そんな顔をして、意外か?」

 後ろからテッドが声をかけてきた。

「ああ…、この祝賀会は内々で済ませると聞いていたから、君たちが来ているとは思わなくて」

「ここの院長が招待してくれたからな。元々、俺はこういったことはそれなりに参加してきたし、アリアは音楽しか考えていないような奴だけど、気が向いたら参加したりはするんだ。付き合いとか、色々な…」


 テッドが少し離れた所に視線を向けると、そこから凄い勢いで何かがアリアに向かっていった。

「アーリアっ!」

「ミシェル、こんな場所で走るんじゃない! 危ないし、ここの子が真似したらどうするのよ! というか、最近よく会うわね!」

 ミシェルはがしっとアリアに抱き着くが、アリアはそれを必死で引き剥がそうと足掻いている。アリアはやんややんやと騒ぐが、対してミシェルは意に返さず嬉しそうに笑っている。


「おいおい。家じゃないんだからその辺りにしておけよ、ミシェル。可愛い市長様のイメージが、どんどん崩れてるぞ」

「そんなの関係ないよ。そもそも、ここにいる子たちとは昔から知り合いだからね。…ああ、でも、君とは二度目だね。こんにちは、ヒスイ君!」

「知ってるのか?」

「まあ、色々と。守護者のことについては父の時代から聞いてたし、ブリューゲルもいるからね。その周りのことは知ってるよ。そういえば、この祝賀会もそこにいるイロハちゃんとイロハちゃんを誘拐犯から助けたヒスイ君を主役にしたパーティーだよね。大事な市民の一人を助けてくれてありがとう! 君はヒーローだよ!」

 そういってミシェルはアリアから手を離して、ヒスイの手を握った。


「こんな奴なんだ…慣れてくれ」

「こんな奴って何? 超美少女だよ?」

「そうね、超やかましい美少女よ」

 三人はわちゃわちゃと話しているうちに、ヒスイはひっそりと抜け出してイロハの下へと戻った。


「あはは、ミシェルさんは相変わらずですね」

「そうだな。底抜けの明るさだ」

 自称超美少女市長を後にして、ヒスイたちは別の場所へと移動することにした。


 *


「おっさん…すまねぇ!」

「諦めるな、レック! いや、でも無理かも…」

 『勇者至言』を手に、レックとその執筆者である男は全く誰も立ち寄らないスペースで平積みされた本を見ながら嘆いていた。

「アンタらは底抜けのバカね」

 コハクがそう口にすると、彼は机に伏せた。


「どうしたんだ?」

 コハクがヒスイに気づくと、哀れな二人を指さしながら経緯を話した。

「勇者の言葉を布教しようとしたみたいなんだけど、ここの子たちってまだ字も読めない子が多いでしょ? だから、あんなに張り切って本を用意したけど大赤字ってわけ。まあ、金を取るつもりは最初からなかったみたいだけど…やるなら、屋台でも出したほうがマシだったんじゃない?」

「えっと、それなら私が一つ…」

 イロハの言葉に、男は表情を輝かせかけたが、よく考えてみるとかなり年下に気を使われたと気付いて少しナイーブになった。


「はぁ…厳しいよなぁ。世の中、世知辛い…。新しい本は全然売れねぇし、夢見すぎたんだ。俺には『勇者至言』しかない…でも、ここにいる大人は大体持ってんだよなぁ。売り込みに行っても、俺の名前は全然有名じゃないし…。あ、そうだ。フィルモニア様の言葉をまとめるのはどうだ?」

 男は嘆いていたかと思うと、ひらめいてこうしてはいられないと立ち上がった。

「それなら、私のまとめたメモでも──」


 イロハがメモ帳を出そうとした手を、誰かが止めた。

「それは辞めたほうが賢明だと思うよ。カルト本か、教典か、どうなるかは分からないけど、ろくなことにはならないだろうから」

 いつの間にか、セツナが気怠そうに現れた。

 その隣にはフィルモニアがいた。


「わたしはいいよ? 時間があるときなら、いつでも…」

「君の言葉、昔に良いように利用されて、その火消しを誰がやったと思ってるの? 勇者ならともかくとして、きみの言葉は毒だから辞めたほうがいい。もう一度、あんな奴らの後始末なんてごめんだからね」

 珍しく、セツナは少し感情的にフィルモニアを責めていた。


「ごめんね、セツナ。でも…」

「だったら、うちからブリューゲルを紹介するから。そのほうが良いよ。これでいいかな?」

 少しの間、2人のやりとりに戸惑っていた執筆者の男はフィルモニアに気づいた慌てて話を収めようとした。

「え、ああっ、すまない。大きな話にするつもりはなかったんだが」

「気にしなくていいよ。フィルモニアの子守…というよりも監視? まあ、それから暫く息抜きできるなら悪くないから。暫く二人に任せるね」

 そういって、男を連れて何処かへと去っていった。


 それを見送った後、フィルモニアはレックに謝罪した。

「ごめんね…、わたしがこの場を壊してしまったみたいだね」

「気にしなくていいぜ、おっさんもやりがいのありそうな仕事が巡ってきたみたいだし」

 そして、フィルモニアはコハクに気付いて声をかける。


「久しぶり、随分と背が伸びたね。コハクちゃん」

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