終曲へ至るために
一滴の汗が地面へと落ちる。
舞台は最高潮に達したのと同時に、体力があとどれほど食らいつけるのかの根比べへと向かっていた。
アリアは気丈にヴァイオリンを支え、最後まで余すことなく絞り切る意気込みで臨んでいた。しかし、限界なのは奏者側だけではない。
テッドはそれまで抱えていた重みが徐々に消えかけているのを感じていた。執念とも執着ともいえるような感情の糸がほつれようとしている。
よく見れば、楽団の奏者たちは既に限界へと近づいていた。何もかもぶつけて、残されたのは消えかけのろうそくの火のようにか細い。
満足できる演奏はできたとしても、仕上げまでやりきらなければ意味がない。かつての想いを受け継いだのなら、しっかりと最後まで。
アリアとテッドの視線が交錯する。
瞬く間、時間にして一秒未満であっても二人の間を遮るものは何もない。連動するにはたった一つの合図があればいい。
それは同時に巻き起こる。
一つはテッドが一気に指揮に力を込めて、散らばろうとする一つ一つの音を導き、力強く、自然に流れを作った。
もう一つは、アリアの旋律が変化したこと。
それは舞台の独壇場を演じる女王などではなく、大衆の背中を押し、危局に陥ろうとする奏者たちの意識を引っ張り上げた。
既にこの舞台にはかつて勝利を約束した勇者はいないのだから。
悲劇を通り抜けたのなら、その先にあるものは大団円であるべきだ。それには誰一人欠けてはならないのだから。
誰よりも激しく震わせ、誰よりも鮮烈に染め上げられるのなら、今はそれを捨てることでシンフォニーを生む。
それが黄金の楽章なのだから。
最後の音を告げるとともに、静寂が訪れた。
アリアは毅然と前を向き、丁寧にお辞儀をする。
誰よりも真っ先に拍手を届けたのは、専用席から立ち上がったミシェルだった。それに続いて大きな歓声が巻き起こる。
「ブラボー!」
アリアはその歓声に対して振り返ることなく、舞台から去る。舞台袖まで来たところで、身体が芯を失ったように近くにあった壁にもたれかかる。
「ははっ、やりきったわ…」
テッドは倒れたアリアに手を伸ばす。
震える手がテッドの手のひらに乗せられた。
「それで満足か、お嬢様?」
「バカね、次があるのよ。どんなに演奏しても、また次がある。次はもっと、最高の演奏をしないと」
「強欲だな」
「デッドも同じでしょ…痩せ我慢なんてして、バレてないと思った?」
「お前にはやっぱりバレるか…」
「カッコつけるの、似合わないわよ。それでワタシをリードしたつもり?」
「指揮者なんだから、お前くらい御して見せないとな」
「「次は絶対に(ワタシが/俺が)リードする」わ!」




