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境界:ジェネラルブラッド  作者: 徘徊猫
煌めく黄金のシンフォニー

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22/32

空想、夢想、奇想天外のピースで

「ふわぁっ…、疲れたわ。仮眠でも取ろうかしら…」

 この数日だけで多くのことを知ったことで、アリアは情報の処理や新たなアイデアに頭を膨らませて、気付いた頃には夜が明けていた。


 考えをまとめた手帳を閉じて、頭の中で公演のプログラムを組み立てる。頭が休まる時なんてない。


 自室のベッドでも落ち着かずにごろごろと転がっていた。


 頭の中で連想が止むことはない。

 ピースが揃っているうちに形にしようと、何度も比較検討し、窓側に転がっては違う想定を考えて、何かが足りないと反対方向に転がる。


 そしてやっと形になってきた時に、その瞳は眠りへと落ちてゆくのだ。




「んぅっ、……何かいい夢でも見た気がするわ」

 寝ぼけた調子でアリアはベッドから起き上がり、時間を確認する。起きたのはお昼ごろだったようだ。

(ご飯は……要らないわね。気合いで持たせましょう。いざとなればテッドが用意しているお菓子で誤魔化せばいいわ)

 お腹は空いていない。

 もしかしたら、頭にリソースを奪われて、鋭い部分以外の感覚が極端に鈍くなっているかもしれない。

 だとしたら、悪くもない。

 必要なら、食事すら惜しんで打ち込みたいときもあるのだから。必要なら点滴ですらいいかもしれないが、流石に動きにくそうだし見栄えが悪い。

(食べたいと思った時に食い溜めって、できないのかしらね)

 今はとにかく楽器に触れたい。

 確かめたい。


 それ以外を頭の中から追い出すように、アリアは楽団の下へと向かう。思考が最適化され、不要な情報がシャットアウトされていく感覚。一歩、一歩、足を地面に踏みしめても、思考だけは別の空間で何かを思い描いている。


 気付けば、楽団の仲間たちの練習場に繋がる扉の前まで歩いていた。


「……」


 少し躊躇った。

 確かに彼らに対して期待しているとはいえ、彼らに対して大きなプレッシャーをかけているという認識はある。

 そして今回、またわがままを通す。


 仲間たちの人格も知っている。

 少なくとも、悪い人たちではない。

 それでも、不安になる時もある。


 もし信頼があっという間に崩れたら?

 何かが巡り巡って反感を買っていたら?

 実は前提としているものが全て過ちだったら?


 どれも理不尽で、防ぎようのない災難だ。

(だから、考えるだけムダってものよね…)


 今できることを今するしかない。

 そんな道理はどんな所にいたって当然のことだ。


(間違っていれば、後から修整すればいい。信頼が崩れたら、もう一度取り戻せばいいわ。それにどれほどの労力をかけてもね)


 “妥協”という言葉はアリアの辞書にはない。

 結局のところ、成功させれば良いのだから。


(嫌われてるなら、思いっきり嫌われたほうがいい。ワタシは好きなようにやるもの)

 そんなことで立ち止まったりするつもりはないと、アリアは扉を開いた。


「……え? ど、どっ、どういうコト…?」

 そんな覚悟も、奇想天外な光景を目にすれば動揺して少々立ち止まるものだ。


 *


「浮いてるな…」「どういう原理?」「ゆ、幽霊…?」


 ヒスイが術を発動し終えると、楽器が宙に浮いてひとりでに動き始めた。


「……」

「なあ、ヒスイ。これはどうなっているんだ?」

 何かをずっと考え込んでいるヒスイに、テッドは尋ねた。


「ああ、これは楽器の中にあった残留思念を術で実体化させてみたんだ。……まずかったかな?」

「いや、心霊現象を目の当たりにさせられて、俺が正しい判断ができると思うか? とりあえず、その残留思念というものについて詳しく教えてくれ」


 ヒスイは術によって見えたものを事細かに説明し始めた。




 「ふむ、つまりはそこにいるのは楽器の元の所有者。楽器を守って亡くなった人たちってことだよな?」

「そういうことになるな」

 テッドの言葉にヒスイは頷いた。


「彼はこの楽器を死ぬまで、その後も思念となって宿っていた。それほどの執着を持ってしても守りたかったんだろうな…。彼の想いはたった一つ。演奏をすること、それだけらしい。…他に宿っている残留思念は一つ一つ確かめないと分からないけど」


「へえ、音楽家の幽霊か」

 テッドは浮かんで演奏する楽器を見ながら面白そうに呟く。

「正確には幽霊でないんだろうが、まあ、同じようなものだと思うから気にしないでくれ」

「気にしないさ。ふむ、そんな偉大な心を持った音楽家に幽霊というのも失礼だな。精霊がいいか?」

「…さあ、好きに呼べば良いんじゃないかな。彼とは会話できなかったから、どれが気にいるとかは分からない。適した言い方だと、彼は過去の幻影、たった一つのことだけを繰り返す機械にも近いものだと思う」

「ま、いるかもいないかも分からない存在の名前をつけること自体失礼だな」


「それで、これをどうする?」

 術を解除すれば、楽器は浮くことができなくなる。今まで通り使えるだろう。浄化すれば、多少繊細な楽器にダメージを与えるかもしれないが、楽団の演奏者たちはやりやすくなるかもしれない。

「ま、色々と試してみようぜ。そうだ、みんなでアリアが戻ってきた時に驚かせてやろう!」


 *


 ステージには楽器とともに楽団の奏者たちが、まるで宇宙空間にでもいるかのように自由に浮遊しながら演奏をしていた。一部は仮装までして…。

 そのはしゃぎようは子どものようにも見える。

「アリア、驚いたか?」

「驚いたというか……うちの楽団はいつからこんなに珍妙な曲芸集団になったワケ…?」

 アリアは扉の前で立ち止まった理由の全てが馬鹿らしく感じてきていた。

「お前の厳しいご指導の賜物だな」

「ワタシ、こんな指導してないけどっ?!」

 アリアが抗議しても、テッドは笑って軽く受け流す。


「ま、みんな不測の事態の対応には慣れてるってことだ。それは間違いなくお前のお陰だぞ、誇りに思えよ」

「ソレ、嫌味よね? 分かってるわよ、ワタシがわがままで振り回してるってことくらいは」

 はぁ、とアリアは深く考えないようにした。


「おいおい、それでもみんなここまでついてきただろ? さて、団長。俺らもサプライズを用意したんだ。団長も俺たちに驚きを与えてくれ」

 どうせいつもこうなのだ。

 こちらが応えなければ、逆に置いていかれる。

「お嬢様、の次は団長? ふん、ま、いいわ。みんな、よく聞きなさい。史上最高の、コンサートにしましょう!」

 アリアは自身の構想し直した演出設計を語り始めた。

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