雨宿りしているミカン箱をかかえた「びーえるまんがのアクヤク」令息なるものを拾った
ことの発端は卒業式の前日。その日は生憎の雨で、僕は実家に送る荷物を運んでもらうため、寮の入り口へ馬車を回してもらっていた。
何度か部屋と馬車を往復しても、動かぬ陰。
雨で立ち往生していた王子様の婚約者は、いつもと様子が違い。声をかけたのは、うちの領地の名産品であるミカンがキッカケだった。
「ミカン、お好きなんですか?」
「…………うん」
ミカン箱からはみ出るほどの荷物を抱えた、途方に暮れている彼。
ポロポロと涙を流す彼の話に耳を傾け、行くあてがないと言うので「うちに来ますか?」と誘ったのが始まりだった。
そのまま僕たちは卒業式に出ることなく、ひと足先に学園を後にした。
前世の記憶を思い出したらしく、明らかに前より親しみやすくなった彼。
実家の両親に事情を説明し、同じ屋根の下、僕たちは共に暮らすようになった。
最初は借りてきた猫のようだったが、少しずつ態度が軟化していき、飼われていた猫達と共に、僕に構われに来るさまを微笑ましく思っていた。
「どんかんむじかくけいしゅじんこう、カワイイがすぎる」
猫共々コタツの罠にハマりウトウトしていると、慣れ親しんだ匂いに包まれていた。
呪文らしきものを唱えている彼曰く、「メロついてる」状態。らしい。
またたびを与えられた猫だと思えと前に説明されたけれど、未だに正しい対処法がわからない。
しなやかな筋肉に、美しい顔立ち。
中身は猫だが、纏う雰囲気は猫より黒豹に近い。
とりあえず、いつものように猫と彼を一緒にナデナデしておいた。
喉からゴロゴロ音をさせる猫と違い、普段はカッコイイのに、彼から垂れ流される詠唱なみの早口は、とても残念な人だと思わせるのに充分だった。
これが「ぎゃっぷもえ」というヤツかも知れない。いや、違うか。
彼の言葉のニュアンスは、僕にはとても難しいので、合っているかわからないけれど──。
「可哀想で可愛いね」とコソッと耳元で囁いたら、コタツから飛び出して、全力で逃げて行った。ついでに猫も。
反応を見るかぎり、どうやらまた正しくない行いをしたのかも知れない。
かまいすぎたかもしれないと、ちょっと反省した。そこら辺の壁に頭を打ちつけるという、奇行をおかしていないか心配である。
自由に動けるようになった身体を、何となく寂しく思い、最近引っ付かれるとドキドキしちゃうから、やめて欲しいと、いつ彼に切り出そうか考えていた。
多分、僕の好きと彼の好きは種類が違うように思うから。




