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第7話 幼馴染は遊びたい





 放課後――俺と白峰さんは遥香の後ろをついて歩いていた。

 

「それで遥香、どこ行くんだ?」


「奏向さぁ、ちょっとは自分でリードしてみればぁ? それでもホントに男なのぉ〜?」


 うっかり地雷を踏んでしまったらしく、いつものメスガキモードへと移行する遥香。


「すいませんねぇ慣れてなくて」


「ま、慣れてたら逆に殺すけど……」


 ボソッと小声で呟いた遥香。


「なんか言ったか?」


「別に……そだ、映画でも観ちゃう? 上映中は会話しなくても済むし、面白かったら後でハナシのネタにもなるよね?」


 遥香なりに白峰さんのことをよく考えてくれている。感心すると同時に、日頃から俺にもそのくらい優しく接してくれよと、嫉妬も覚えた。


 ここで白峰さんが俺の腕をツンツンする。

 本日何度目かの、耳打ちの合図だ。

 

「ゴニョゴニョ……」

「白峰さん、観たい映画があるんだってさ。マジカンが主題歌歌ってるやつらしくて」


「あ、それあたしも観たかったやつ! じゃあ決まりだね〜。ジュースとポップコーンは奏向の奢りでヨロ〜」


 いつもならば「なんでだよ」と、文句を言うところだが、今回は遥香の優しさに免じて引っ込めるとしよう。



 スクリーンへ入場し、席へと座る。白峰さんの都合上、俺が真ん中。右を向けば黒髪美人、左を見ると黙っていれば超絶可愛い幼馴染。これが、俗に言う両手に花というやつか。


「奏向、ポップコーンちょうだい?」


「ほれよ。ってか俺、別に腹減ってないしお前が持ってていいぞ?」


「邪魔だからムリ。奏向が持っててよ……また欲しくなったら、肩叩くから……」


「あ、あぁ……」


 館内が薄暗いからだろうか……幼馴染の声と顔つきが、なぜか無性にエロく感じてしまう。


 俺は上映前の無駄に長い予告も、映画の楽しみのひとつだと思っている派だ。次はこれを観よう、なんてその時は思うんだけど、実際に観たことはほとんどないのは何故だろう。


 そんなことを考えていると、右腕を突つかれ、耳元で虫の鳴くような声がする。


「あ、あの……夜木君……」


「どうした?」


「し、心配なので、本編が始まる前にお手洗いに、行ってきてもいいですか……?」


 耳元で囁かれたからなのか、恥じらっている白峰さんに対して、ついうっかり変な気持ちになった。


「も、もちろん……俺に許可なんていらないよ……?」


「す、すぐ戻ってきますね……」


 白峰さんが戻ってくると、タイミングよく上映が始まった。ジャンルはアクション映画で、見応えのあるガンアクションに俺は心躍らせていた。やっぱり剣とか銃は男心をくすぐる。そう思うと、隣の2人は楽しめているのだろうか。


 ふと左へ顔を向けると、意外にも集中して見入っている様子だった。節々で体をビクつかせたり、時にはクスリと笑ってみせたり。こうやって見ると、やっぱ普通の女子なんだよなぁ。


 映画ではなく遥香に見惚れてしまっていた俺を咎めるかのように、右腕に何かが当たる。また耳打ちか、と思い顔を向けると、目の前には俺の肩を枕にスヤスヤ眠る白峰さんの顔が。


 同じ人間とは思えないほど、完全無欠な寝顔だった。


 ――そういえば、寝不足って言ってたっけ。


 小っ恥ずかしい気持ちは隠せないけれど、今起こすのは可哀想だから、エンディングが流れたら起こしてあげよう。


 すると、今度は左肩に異変が。


 さっきまで楽しそうにしていた幼馴染まで、俺の肩で眠り出したのだ。


 それからは、映画なんて正直どうでもよかった。この時間が終わって欲しくなさすぎて、主人公よりも、敵を応援していたくらいだ。


 エンディングでマジカンの曲が流れ出すと、何事もなかったかのように2人は目覚める。



 映画館を後にした俺たちは、遥香の提案で晩飯を食うことに。適当なハンバーガーショップへ入り、席に座ると遥香が口を開いた。


「あの映画さぁ、ラスト微妙じゃなかった?」


「え、お前起きてたのか?」


 バツの悪そうな顔を浮かべる遥香。


「あ……えっと、なんとなーくうっすら音だけ聞こえてきてたからさ……」


「まぁ確かに最後はヒロインと結ばれると思ってたけど、あの終わり方は斬新だよな」


「なんかあの主人公、奏向みたいだったよねぇ。バカで銃以外何やってもダメで女の子にモテなくて。あ、でも奏向の場合、射撃も別に上手くないからもっと最悪かぁ〜。残念でしたぁ〜」


 映画館を出ただけで、人はこうも変わってしまうものだろうか。いっそ将来、映画館にでも住もうか。


「お前、ホント楽しそうだな」


 ――その時だった。


 遥香の前に座っていた白峰さんが、突然立ち上がって声を大にする。


「わ、私のお友達を、そんな風に悪く言わないで下さい! 夜木君は……すごく優しくて、面白くて、とっても素敵な人です!」


 一瞬気圧された様子の遥香だったが、すぐさま立ち上がると、更に大きな声で対抗する。


「……そ、そんなの白峰さんに言われなくたってあたしの方が何倍も知ってるし! あたしと奏向はもう10年以上もずーっと一緒なんだから!」


「え……そうなんですか……? でも仲良しなら、なんで、そんな酷いことを言うんですか……?」


「そ、それは……奏向は……ど、ドMの変態野郎なの! こうやってディスられると興奮するって言うから、わざわざあたしがいっつも悪者になってあげてるだけ!」


 白峰さんが声を張り上げたことに驚き、しばし固まっていた俺だったけれど、これには流石に口を挟まずにはいられなかった。


「は……? おい遥香、白峰さんは純粋なんだから本当に信じちまうだろうが!」


「そ、そうだったんですか……!? すみません……私、そうとは知らず、お2人のプレイに横から口を挟んでしまって……」


「いやプレイって……違うよ白峰さん? 今のは全部遥香の冗談で――」


 赤らめた顔を俺から背ける転校生。


「こ、好みは、人それぞれですから……私はそれについてあまり偏見はない方なので、ど、どうぞ続けて下さい……」


 ――うん、全然聞いてねーや。


「あれ、てか白峰さん……今、普通に遥香と話せてるくね……?」


「「あ……」」


 俺たち3人は、思わず顔を見合わせて笑い合った。


「ふ、不思議です。興奮しちゃったからでしょうか……アドレナリンって偉大です……」


「でも一応もっかい訂正しとくけど、俺はMじゃないからね?」


「はい、分かってます……夜木君は、ドMさんなんですよね?」


 ――うん、全然分かってねーや。


 このやりとりにハハハと笑った遥香は、先程よりも柔らかくなった表情で言う。


「……これからよろしくね白峰さん。てか今度から夜空って呼んでいい? あたしのことも遥香でいいから」


「わ、分かりました……遥香、さん……」


「タメなんだからさ、そこは呼び捨てでいいんだよ?」


「そ、それはまだ恥ずかしいので……せめて、は、遥香ちゃんで、許して下さい……」


「うん、いいよ。じゃあ夜空はさぁ、休みの日って基本何してるのー?」


「えぇっと……」


 突如始まったガールズトークに交じるのも気が引けて、席を立ってトイレへと向かう。


 手を洗っていると鏡に映るその表情に――白峰さんの成長を喜んでいる自分と、どこか寂しいと感じている自分もいる気がして、もしかして俺は性格が悪いのだろうか? と、少し自己嫌悪に陥ってしまった。


 

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