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メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!  作者: 野谷 海


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最終話 卒業




「奏向ぁ〜、早く起きないと遅刻しちゃうよ〜?」


 いつものように玄関から部屋に向けられた遥香の大声によって、俺はベッドから飛び起きる。


 早いもので、俺と遥香が交際を始めてから、もう1年半が経っていた。


 遥香は高校2年のあの夏休みのように、毎朝欠かさず俺の家へ迎えにきてくれ、共に学校へ登校している。


 ――本日は高校の卒業式だった。


 あれから少しは自分なりに努力を続けてきたつもりだが、特別な日であろうと早起きだけは未だに苦手である。


 準備をして玄関へ向かうと、遥香と母が談笑していた。


 俺に気付いた母は、こんな日まで開口一番に小言を向けてきた。

 

「あんた、最後くらい自分で起きられないもんかしら」


「これだけは苦手なんだよ……」


「ま、昨日も遅くまで勉強してたみたいだし、昔みたいにゲームばっかりしてるよりはマシかもだけど」


 この日を待ち侘びていてた遥香は、俺の母に笑顔で尋ねる。


「ねぇ奏向ママ、約束通り大学生になったら奏向と一緒に住んでもいい?」


「そうねぇ、遥香ちゃんが迷惑じゃなかったら、私は1人分家事も楽できて助かるわ」


「ありがと! ちゃんとお金のことは自分たちでバイトして頑張るから!」


 遥香の無邪気な笑顔が、今日は一段と眩しかった。


「なんだか、娘を嫁にだす気分……」


 涙ぐむ母にツッコミたいことは多々あるが、俺は急いで靴を履いた。


「遥香、そろそろ行かないと」


「うん、じゃあ奏向ママ、行ってきまーす!」

「い、行ってきます……」


「行ってらっしゃい」


 小さく手を振る母に感謝の言葉のひとつでも伝えたかったけれど、遥香の前だと小っ恥ずかしくて、帰ってからにしようなんて思いながら、家を出る。

 


 何度も通った通学路も、今日で最後だと思うといつもと少し違って見えるのだから不思議だ。


 俺の少し前を歩いていた遥香が、突然振り返って笑顔を向けた。


「2人でおんなじ大学受かって良かったね……」


 この制服姿も、今日で見納めか……。


「遥香が勉強教えてくれたおかげだよ」


「ホント変わったよね奏向……しかも最近テストの点数でも何回か負けちゃうこともあったし、前みたいに全力で煽れないからちょっと悔しいけど……」


 唇を尖らせて悔しがる遥香はメスガキというより、イタズラを叱られた近所の悪ガキみたいだ。


「遥香、いつもありがとう。これからもよろしくな……」


「なに突然?」


「たまには素直に感謝しておかないとバチが当たると思ったから」


「なんだかそれ、夫婦の会話みたい……」


 遥香はポッと顔を赤らめながら言った。


 そのしおらしい様子を見てると、なんだかこっちまで恥ずかしくなる。


「い、いつかはそうなるんだから、今から練習しといたっていいだろ……」


 顔を隠すように前を向いて歩き出す遥香。


「あたしもこの1年半は、信じらんないくらいに幸せだった。これからもっともぉ〜っと幸せにしてね?」


 言葉の最後に顔だけで振り返った遥香の笑顔を、この先もずっと守っていきたいと思う。


「約束するよ」



 ***

 


 卒業式も無事に終わると、遥香との待ち合わせ場所だった校門の前へやってきた。


 人気者の遥香のことだから、まだしばらくは時間がかかることだろう。


 すると、テロン――と、スマホが鳴った。


 俺は届いたメッセージを見て、思わず目頭を押さえて笑ってしまった。


 そこへ、遥香が急ぎ足で駆けつける。


「ねね、夜空からのLINE見た!?」


「あぁ見た。あの人はホントに凄いよ」


 俺たちのグループメッセージに添付されていた1枚の写真には、卒業証書を持った沢山の友人達と仲睦まじく笑顔を浮かべている白峰さんの姿が写っていた。


「早く4月になんないかなぁー。でも夜空また可愛くなってるから、ちょっと心配だけど……」


 遥香が目を細めて俺を睨んでくるのには理由がある。


 なぜなら、俺たちと白峰さんは示し合わせた訳ではないのにも関わらず、進む大学が偶然同じだったからだ。


「俺って、そんなに信用ない?」


「あるわけないじゃん。今まで散々振り回されてきたんだから」


「すんません……」


「ふふ……ざぁこ♡」


 相変わらずの嘲るような表情に、今では安心すら覚える。


「久しぶりだな、それ……」


「でもやっぱ、楽しみの方が勝っちゃうかも」


「俺も楽しみだ……遥香と一緒に暮らせるのが……」


「ねぇ奏向……チューしていい?」


「だ、駄目に決まってるだろ、まだここ学校だぞっ!?」


 キョドった俺を見てケラケラと笑う遥香。


「冗談だし……じゃあ一緒に帰ろ?」


「お、おぅ……」


 ――この時、ふと思った。


 俺の帰る場所には、今までもこれからも遥香がいる。


 それがどんなに心強くて恵まれていることなのか、それを実感するまでに随分長い時間をかけてしまった。


 その間、俺たちは何度かすれ違った。

 そして、何度かぶつかった。


 でも今こうして隣にいられるのは、運命とか赤い糸とか、そんな幻想じみたことでは決してない。


 ほんの少しだけ素直になる。

 そして自分の気持ちに嘘をつかない。


 たったそれだけのことで、この世界がまるで違って見えるようになることを、俺は高校生活で学んだ気がする。


 これから先、上手くいかないことも、躓いてしまうことだってあるだろう。


 でも俺は、もう迷わない。


 目指すべき目標と、越えるべき壁が、すぐ隣にいてくれるのだから――。


 

 ―了―


 

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