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メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!  作者: 野谷 海


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第44話 転校生の手紙





「夜木ー、聞こえてるかー? 次はお前だぞー?」


 何度も呼びかけていた谷内先生の声に、なかなか気付くことができなかった。


 それほどに今の俺は放心状態だったのだろう。


 手紙を受け取り、席へ戻る。


 結局、休み時間になってもその真っ白な封筒を開くことが出来ずに、ただジッと見つめていた。


 すると、遥香と持田が俺の席までやってきて声をかけてくれた。


「奏向……大丈夫……?」

「白峰さんのことは残念だけど、こればっかりは仕方ないよな……」


「お前ら、友達が黙って転校したっていうのになんでそんな簡単に受け入れられるんだ?」


 俺がそう尋ねると、2人が浮かべたバツの悪そうな表情に、ふと思うことがあった。


「まさかお前ら、知ってたのか……?」


「うん……ちょっと前にメール貰ったんだよね」

「悪い奏向、俺も聞いてた……」


「どういうことだよ……じゃあなんで俺にだけ教えてくれなかったんだよ!?」


 ぶつけようのない怒りが沸々と込み上げる。


「ごめんね……夜空に口止めされてたの……」

「すまん……俺もだ……」


「どうして俺には黙って行っちまったんだよ……友達だって、言ったのに……」


 握った拳で机に八つ当たりすることしか出来ない自分に、余計に腹が立った。


 俺は、溢れ出てくるこの感情の名前をまだ知らない。


「きっと奏向にはサヨナラが言えなかったんだと思う。てか、言いたくなかったんだよ……」


 遥香の言った「サヨナラ」という言葉が、やけに重く心に突き刺さった。


「ごめん……少し、1人にさせてくれ」


 俺は席を立って、あてもなく教室を出た。



 何も考えずに歩き回っていると、人通りのない体育館の裏手に俺はいた。


 なんとなく壁に寄りかかって腰を下ろすと、悪いことでもしているような気分になる。


 ふと、ポケットからはみ出した手紙がチラつく。


 黙って転校していったくせに、今更俺に何を伝えたいと言うのだろう。


 いっそのこと、読まずに食ってやろうか。


 手紙の中心部分に一瞬指をかけるも、フッとため息を溢してから、封を開いた。



 ――――――――――――――


 夜木君へ

 


 これを読んだ夜木君は、きっと怒っていると思います。


 だから先ず、何も言わずに転校を決めてしまったことをお詫びさせて下さい。


 本当にすみませんでした。


 でも私には、前の学校でやり残したことがあるんです。


 以前にもお話ししたように、私は元いた学校のクラスメイトの方達から、あまり好ましく思われていませんでした。


 それが原因で、担任の先生に勧められるがまま、転校という手段を選んでしまいました。


 結果的にそれで夜木君達と出逢えたのですから、私はこの学校へ転校したきたことに一切の後悔はありません。


 ですが、前の学校にいた方々の顔を、今でも度々夢に見るんです。


 こうして逃げ続けている限り、私は一生この夢を見続けるのではないかと不安に駆られました。


 どうせ夢を見るなら、せめて良い夢を見たいと思ったんです。


 だから私は、彼女達との関係を一からやり直して、逃げたことをお詫びして、誠心誠意お話しをして、お友達になりたいと思いました。


 今の私なら、夜木君と出逢ってからの私なら、それが出来るような気がするんです。

 

 もしも上手くいかなくて、私がどうしようもなく凹んでしまった時は、夜木君は慰めてくれますか?


 勝手に消えてしまった私の顔なんて見たくないと言われても仕方ありませんが、私は夜木君のことを、今でも一番のお友達だと思っています。


 それが私の自信であり、唯一の自慢なんです。


 ですから、夜木君が私をどう思っていようと、私は勝手に、夜木君を心の糧にさせて頂きます。


 最後に、これは言おうか迷いましたが、負け惜しみのひとつくらいは伝えておこうと思います。


 遥香ちゃんと、末長くお幸せに。


 お2人が幸せにならなかったら、私、許しません。


 P.S.このお手紙は、食べちゃダメですよ?

 


 白峰夜空より


 ――――――――――――――



「ったく、どっちがUFOだよ……」


 読み終える前から、涙が溢れて止まなかった。


 手紙の最後を冗談で締め括っていたことに、俺への配慮すら感じる。


 今回の彼女は逃げ出したたのではなく、戦場へと向かったんだ。


 たぶんまだ、怖くて仕方ないだろう。


 それでも勇気を振り絞って、まさに今も、戦っている。


 あんなに人見知りだった彼女が、自分を虐げていた人間の集団の中へ、自らの意思で飛び込んでいったんだ。


 それはきっと、普通の孤独よりも辛く厳しい道のりだけど、白峰さんなら大丈夫……どこかそう思わせてくれるから、あの人は不思議だ。


「負けてらんねーな……」


 俺は自分の両頬が赤く腫れ上がるほどに思いきり叩くと、教室へ戻った。

 


 

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