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メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!  作者: 野谷 海


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第41話 転校生とシマウマ2





 尻尾をぶらんぶらんと豪快に振りながら柵の合間から顔を覗かせるシマウマ。


 それを慈愛の表情で見つめる白峰さんからは、聖母のようなオーラが見える。


「シマウマさん、可愛いです……」


「白峰さんって、本当に動物が好きなんだな」


「はい……喋るのが苦手な私でも、動物さんとなら、仲良くなれる気がするんです……」


「でももう人間にだって友達はいるだろ?」


「はい、私にとっては今でも夢みたいです……全部、夜木君のおかげです……」


 それはお互い様だよ――そう思ったけれど、口には出さなかった。


「俺は何もしてないし、きっとこれからもっと増えるよ。白峰さんは俺なんかより、ずっと凄い人だから……」


「夜木君にそう言ってもらえると、なんだか頑張れそうな気がします……」


 彼女が謙遜せず素直に褒め言葉を受け取るのは、珍しいと思った。


「白峰さんが本気出したら、すぐに友達100人だってできるかもな!」


「これから何人のお友達ができたとしても、私の初めてのお友達は、夜木君です」


 ふいにシマウマから目線を外し、隣にいた俺を見てそう言った彼女の笑顔には、今まで感じたことのない僅かな自信のようなものが垣間見れた気がした。


 これにはなんと答えて良いのか分からず、俺は口をつぐんでしまう。



 俺たちがしばらく立ち止まっていたシマウマの檻からすぐ後ろでは、ヤギとの触れ合い広場のような場所があった。


「夜木君! 後ろに夜木君のお友達が沢山います……!」


「俺はヤギと友達になった覚えはないぞ?」


「ふふふ……でも、同じお名前ですよ?」


 このおちょくったような顔は、以前の彼女からは考えられない。


「じゃあ白峰さんは、夜の空が友達か?」


「なんだかロマンチックで素敵です。夜空のお星様がみんなお友達だったら、100人なんてあっという間に超えてしまいますね……?」


「間違いなくギネスに載るだろうな。でもそんなに多かったら顔と名前が一致しなさそうだけど」


「私は、一度見た人の顔は忘れませんよ?」


「そうだった。白峰さんなら可能か」


「はい……!」


 いい思い出も嫌な思い出も、忘れられずに過ごすのは、彼女にとってはどうなのだろう。決して他人を悪く言わない天使のようなこの人には、それが重荷になっていないのだろうか。


「ヤギと、友達になりにいくか?」


「なりたいです……!」


 過去はどうしようもない。俺ができるのは、せめて友達としていい思い出を多少なりとも増やしてあげられることだけだ。悔しいけど、それだけだ。



 ヤギと戯れたその後すぐに園内を一周してしまい、動物園を後にした俺たちは昼食をとることに。


 もちろん近くの飲食店はリサーチ済みだったから、白峰さんの今の気分に合わせたお店へスムーズに入店できた。そこで提供された料理もお気に召したようで、彼女が終始浮かべていた笑顔が心から嬉しかった。


 店を出て尚も満足げな白峰さんが言う。


「ここのオムライス、すっごく美味しかったです……!」


「ホント美味かった。俺も初めて来たけど、たまにはこういうのもアリだな」


「えっ……夜木君も初めてだったのに、どうしてこんな素敵なお店を知っていたんですか?」


「そ、それは……白峰さんに喜んで欲しくて、めっちゃ調べた……」


「っ……!!」


 顔を真っ赤にさせて固まった彼女を見て、俺も妙に恥ずかしくなって目を背けてしまう。


「そ、そういや、これからどうする……?」


「わ、私……夜木君と行きたいところがあるんですが、いいでしょうか……?」


「も、もちろん……どこ?」


「前に一度行った、あの公園です……」


「あぁ……だからあの本を持ってきて欲しいって昨日連絡くれたのか」


「は、はい……ご迷惑でなければ……」


「迷惑なわけないって。俺も続き気になってたし、残り1章だからたぶん今日で全部読み終わるよな」


「ありがとうございます……! やっと犯人が分かるの楽しみです……!」


「俺も読むの遅いし、結局夏休みギリギリまでかかっちまってごめん……」


「あ、謝らないでください……! 私は楽しみがずっと続いて、得した気分なんです……!」


 本当はこの近くで遊べそうな場所もリサーチしていたけれど、彼女のやりたいことが最優先に決まっているのだから、その努力が無駄だったとは思わない。

 


 公園へやってくると、またあのパーゴラの下のベンチに腰を下ろして本を開く。


 心地よい風に吹かれながら、俺たちは小1時間ほど読書を楽しんだ。とうとう最後の1ページを捲った時、これまで感じたことのない達成感や充実感を含んだ読後感を味わうことが出来た。


 数ヶ月に及んだ謎解きの幕引きに、俺たちは互いに感想を伝え合う。読書感想文を書くのは大嫌いだったが、不思議とこの時間は楽しかったし、共通の話題を得たからなのかいつも以上に会話が弾んだ気さえする。


 ふと見渡せば辺りはすっかり暗くなり、ポツポツと街灯が点き始めた。


「もうこんな時間か……」


「本当に、あっという間ですね……」


「駅まで、送るよ……」


「あの……もう少しだけ、お話してもいいですか……?」


 突如として漂い始めた、前回のライブからの帰り道と似たような雰囲気に、ついつい体が身構えてしまい、心臓の鼓動が早くなる。


「俺は全然大丈夫だけど……」


「よかったです。こ、心の準備をするので、ちょっとだけ待っていて下さい……」


 深く深呼吸を始めた白峰さんに紛れながら、俺もバレないよう荒れた呼吸を整えていた。


 

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