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メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!  作者: 野谷 海


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第40話 転校生とシマウマ1





 夏休みも残すところあと3日に迫った今日、俺は白峰さんと一緒にシマウマを見にいく約束をしていた。


 2人きりで会うのは、あのライブ以来。


 待ち合わせの駅に早く着き過ぎてしまった俺が今日のプランを改めて確認していると、何者かに後ろからトントンと肩を叩かれた。


 振り返ると、俺の左頬がその人物の人差し指によってぷにゅりと凹む。


 伸びた腕を視線で追っていくと、そこには顔を傾げながらこちらを覗く白峰さんの姿。


 幼稚なイタズラにまんまと引っかかった俺を見る彼女からは、してやったりという感情は見えてこず、おどおどと向けられた視線がなんともいじらしい。


「お、おはよう……」


「す、すみません夜木君、つい……」


 慌てて指を離し、わたわたと腰を折って謝罪する転校生。


「ぜ、全然いいけど、少し驚いた……」


「これ、一度やってみたかったんです……」


 恐る恐るそう語る純白のワンピースに包まれた白峰さんは、今日も変わらず研ぎ澄まされた美しさを放っていた。


 俺は今まで彼女は軽率に触れてはいけない存在だと、どことなく思っていた節があったから、この突然の積極的なコミュニケーションには正直驚きを隠せなかった。


 やっぱり本当の白峰さんは、俺が思っていたよりずっと、明るい女の子なのかもしれない。

 


 今回乗り込んだ電車は、前回に比べると随分空いていた。調べてみると驚いたことに、都内でシマウマがいる動物園は現在一箇所しかないらしい。これも不人気故なのか、それとも法律なんかが関係しているのかは分からないけど、俺の中でシマウマに対するイメージが少し変わった。特別感というか、オンリーワンであることへのジェラシーにも似た不思議な感情。


「やっとシマウマさんに会えるの、すっごく楽しみです……」


 電車の中で並んで座っていた白峰さんがポツリと溢す。


「昨日の夜に色々調べてたんだけど、シマウマってウマなのに『バウバウ』とか『キャンキャン』って犬みたいに鳴くらしいよ?」


「そ、そうなんですか……」


 白峰さんは素っ気なく俯いてしまった。


「あ、ごめん興味なかった?」

 

「い、いえ、そうじゃなくって……夜木君も今日のことを楽しみにしてくれていたのかなって思うと、嬉しくなってしまって……」


 彼女の恥じらいが伝染し、俺は思わず車窓から外の景色を眺める。色々と考えてきた筈のシマウマトークは、全て頭から抜けていた。



 動物園に到着すると、まずは園内マップを確認する。事前に調べてあるから大丈夫なのは分かっていても、前回の失敗があるからこそ慎重になってしまう。


「夜木君、います……! ちゃんとシマウマさんがいます……!」


「ほ、ホントだ……! よしっ!」


 入場ゲート付近で園内マップを見ながら大騒ぎをする俺たちの姿は、他の来園者の目にはどう映っていたのだろう。


「あ……でも今度は、夜木君の好きなライオンさんやトラさんがいません……」


 申し訳なさそうにこちらを見つめる、宝石みたいなふたつの瞳。


 少し規模が小さめの園内には目玉になるような動物は少ない代わりに、昔話や童話の設定を取り入れて動物に接する楽しさを伝えるアットホームな動物園らしいということは、前調べの段階でも分かっていた。


「うん、知ってた」


「え、夜木君はそれでいいんですか……?」


「今日の目的は、俺にとってもシマウマだけだし、それにこれなら浮気にはならないだろ?」


 白峰さんは、安堵したように微笑んだ。


「ふふふ……そうですね。浮気はいけません」


 浮気などしていない自負はあったけど、その台詞は俺の胸を尖った爪で引っ掻いた。


「じゃ、入るか!」


「はい……!」



 入園早々、プレーリードッグとサーバル、シベリアオオヤマネコがお迎えしてくれる。


「夜木君、すっごくおっきな猫ちゃんです!」


 猫好きの白峰さんは、まるで子供みたいにはしゃいでいて、一瞬にしてここへ来てよかったと思わされてしまう。


 ゆっくり歩みを進めていくと、動物たちとの距離が近く感じられ、聞いていた通りのアットホームな雰囲気に心が浄化される気がした。


「夜木君、見てください……! あっちにキリンさんが見えます……!」


 白峰さんが指をさす方向には、「待っていたよ」と言わんばかりに首を長〜く伸ばしたキリンが2頭。


「うおっ、ホントだ!」


「もっと近くに行きましょう!?」


 高揚した様子で俺の手を掴み走り出す白峰さん。今日はやけに多く感じる慣れないボディタッチの連続に、内心ではどぎまぎしていることがバレないよう必死に平静を装っていた。


「大人になってから見ても、キリンってやっぱデカいんだな……」

 

「これ見てください! キリンさんにご飯もあげられるみたいですよ?」


 鉄格子のそばにある看板に書かれた説明書きには、長〜い棒を使って子供がキリンに餌をあげている写真が載せられていた。


「せっかくだし、あげてみるか?」


「はい……!」


 この笑顔が、俺にとっての餌かもしれない。なんて馬鹿なことを密かに考えていた。


 白峰さんが与えた草をムシャムシャと真顔で頬張るキリンを見ていると、絶世の美少女にご飯を「あーん」して貰っておいて無表情を貫ける精神力の強さには感心せざるを得なかった。


 キリンに負けた気がして首をすくめていると、白峰さんが俺の肩を何度か強めに叩く。


「夜木君、やっと会えました! シマウマさんですっ……!」


 またもや唐突なボディタッチに驚きながらも彼女の視線の先を見ると、念願の白と黒の縞模様が目に入った。



 

 

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