第39話 幼馴染と夏祭り4
コンビニで手持ち花火を買い、俺たちは近所の公園へとやってきた。
遥香が両手に花火を持ってはしゃいだり、文字を書こうと振り回す無邪気な姿は、子供の頃の記憶を彷彿とさせる。
ひと通り花火を楽しみ、最後に残った線香花火の封を開けた遥香が言う。
「ねね、これどっちが長持ちするか、また勝負しよ?」
「いいぞ」
「じゃあ……お腹はいっぱいだし、負けた方は勝った方の質問になんでも答えるってことでどお?」
「まぁ、いいけど……」
勝負が始まり、パチパチと音を立てる小さな灯かりをまじまじと見つめていると、夏の終わりが近づいているのを肌で感じた。
この儚さと寂しさが線香花火の醍醐味でもあるのだろうけど、いつもとはひと味もふた味も違った刺激的な夏だっただけに、心のどこかで侘しさを感じずにはいられない。
すると、追い討ちをかけるように俺の手元の灯かりが先にポトリと消え落ちてしまった。
「はい、あたしの勝ちー!」
「俺はまだお前には勝てないのか……」
「じゃあ質問。今、奏向の中で夜空とあたし、どっちのほーが好き……?」
この台詞と共に、俺たちの周囲から光が消える。暗闇で遥香の顔はハッキリとは見えなかったけれど、暗転前にチラリと見えたその表情が、俺の胸にチクリとトゲを刺す。
「お、おい……」
「イジワルな質問だってわかってる……でも、なんとなくでもいいから答えてよ……」
その微かに震えた声からは、幼馴染の抱える不安や焦燥がヒシヒシと伝わってきた。
「し、質問の答えとは違うかもだけど……俺はこの夏が、遥香とずっと一緒に過ごしたこの夏が……俺の人生で1番、楽しかった……」
「奏向……」
次の瞬間――肌触りの良い浴衣が、俺の身体全体を覆うように包み込んだ。
さっきよりも、さらに深くなった闇。そして俺の顔面には、ほのかに柔らかい感触があった。
「お、おいっ!」
慌てて距離を取ろうとするも、背中に回された両腕によってガッチリとロックされており、下手に身動きが取れない。
「あたしも……」
遥香がそう呟いた際の喉の振動が、脳天から直接伝わってきたと同時に、抵抗する気が失せた。
「そっか……よかった……」
「大好き……」
「ありがとう……もう逃げないから。これからはちゃんと、受け止める。だからもう少しだけ、待ってて欲しい……」
「ばぁか、あーほ、ざぁこ……」
「ごめん……」
「そこで謝ったら、あたしがフラれたみたいじゃん……」
「それならこういう時、なんて言ったらいいんだろな……」
「自分で考えろばぁか……」
「じゃあ……やっぱありがとう……」
「うん……そっちのほーがいい……」
遥香と過ごした濃い夏が、終わる。
これから俺がどんな選択をしようとも、先の人生でこの夏を忘れることは、きっとない。忘れちゃいけない。
この小さなカラダを抱きしめ返すことはまだできないけど、せめて今感じている遥香の温度を、刻みつけるようにゆっくりと目を閉じた。




