第34話 ロックンロールは鳴り止まないっ(夜空Side)
お話しがひと段落すると、遥香ちゃんと私はカラオケを始めました。
先にマイクを握った遥香ちゃんがとてもお上手だったので、自分の番がやってくるとすっごく緊張してしまいました。でも私が歌い終わると遥香ちゃんは、「夜空も上手だったよ!」と言って褒めてくれました。
やっぱり遥香ちゃんは良い人です。
「夜空はやっぱカラオケでもマジカンばっかりなんだね!」
「す、すみません……最近の曲はこれしか知らなくて……」
「変な意味じゃないよ? この頃あたしも奏向の部屋でマジカンよく聞いてるから好きだし!」
そう笑顔で語る遥香ちゃんに、思わず嫉妬してしまいます。
「は、遥香ちゃんは夜木君のお家へ頻繁に出入りされているようですけど、普段どれくらいの頻度で会っているんですか……?」
「今んとこ夏休み入ってからは皆勤賞だね」
サラッととんでもない事を言う遥香ちゃん。
「やっぱり……ズルイです……どうやったら私も夜木君と幼馴染になれるでしょうか……?」
「いやタイムマシンでもない限りもう無理でしょ。てか夜空どこで張り合ってんの?」
「だ、だって遥香ちゃんがさっき、幼馴染しかチューはしちゃダメだと言っていたので……」
「あれマジにしてたの? 冗談だって! てかそんなことより、あたしでも分かるマジカンの曲でデュエットしようよ!」
「は、はい……!」
願ってもない嬉しいお誘いに有耶無耶になってしまいましたが、きっと遥香ちゃんは話題を変えたかったのだと思いました。
私たちは1時間ほど歌い続けると、少し休憩をすることに。人生初めてのカラオケはとっても楽しくて、大声を出したおかげなのか、頭の中がスッキリしていました。
「カラオケって、すっごく楽しいですね?」
「だねー! あたしも久しぶりだし、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかな」
そう言ってジュースをゴクゴクと飲み干した遥香ちゃんは席を立ちました。
「おかわりですか?」
「うん。夜空のも注いでこよっか?」
「い、いえ、私はまだ残っているので……」
「オケ!」
ドリンクバーからジュースをとって戻ってきた遥香ちゃんは、重々しい顔つきで尋ねます。
「前に夜空から聞かれたこと、逆に聞きたいんだけどさ、もしあたしが奏向と付き合えたとしたら、夜空はあたしのこと嫌いになる?」
「嫌いになんて、なる筈ありませんっ……!」
「そっか……やっぱ夜空ならそう言うよね。でも、なってみないと、わかんないこともあるからさ……」
何を考えているのか、真意は分かりませんでしたが、なんだか憂いを帯びた表情でした。
「遥香ちゃん……私、やっぱり……」
私が口ごもっていると、それを遮って口を開いた遥香ちゃん。
「あたしね……この前、奏向に告ったんだ」
「そ、そうなんですか……!?」
「でもね、返事はまだ貰えてない。奏向には、あたしの他に好きな人がいるんだってさ……」
「そ、そうだったんですか……」
「だから、そっからあたしは毎日奏向に会いに行って、猛アタックしてる。今まで何年も素直になれなかった気持ちを伝えたら、前よりももっと、好きが溢れて止まんなくなっちゃった。それに、奏向もあたしとのこと、真剣に考えてくれてる。だからあたしも、奏向とちゃんと向き合いたい。駆け引きとか小細工とか、そーゆーのじゃなくて、真正面からあたしを好きになって欲しいんだよね」
「やっぱり遥香ちゃんは凄いです……私なんて、メールを1通送るのに、何日もかかってしまいました……」
「夜空、この後予定ある?」
遥香ちゃんは、そう言ってムクッと立ち上がりました。
「い、いえ……」
「じゃ、行こっか?」
「行くって、どこへですか……?」
「決まってんじゃん。奏向ん家♪」
ニヤッと白い歯を見せて笑う遥香ちゃん。
「えぇっ……!?」
「だって早く仲直りしてくんないと、こっちも色々とやり辛いんだよね。だからサクッと謝っちゃいなよ」
この瞬間、私の頭の中で音楽が流れ始めました。それは偶然にも、私と夜木君とが初めて会話をした、あの日に聞いていた曲だったと思い出します。今思えば、あの日からこの曲は私の頭の中で、時にはボリュームを下げながらも、止まる事なく流れ続けていたのかもしれません。




