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メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!  作者: 野谷 海


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第32話 幼馴染はモヤってる(遥香Side)





 夜空に振られてからの奏向は、やっぱり元気がなかった。


 あれからもう3日も経つのに、今までみたいな心から笑った顔は、まだ見せてくれない。


 言葉では「もう大丈夫」とか「元気になった」なんて強がってるけど、何年も奏向を見てきたあたしには、それが嘘だってことくらい、すぐにわかっちゃうんだよね。


 奏向の浮かない顔を見てたら、こっちまでモヤモヤする。どうして一緒にいるあたしじゃなくって夜空のことばっか考えてるのって、文句も言いたくなる。


 それに……前に約束したデートのことだって、忘れてないか心配。


 ――でも言えない。


 そんなこと、言えるはずないじゃん。


 今あたしに出来るのは、奏向の心の整理が終わるまで、待つことだけ。


 待つって、ただジッとしてるだけなのに、こんなに辛いことなんだって初めて知った。


 それに夜空が奏向にとった行動は全部きっと、あたしのせいだ。あたしがあの日、夜空にあんなこと言ったから。そのせいで奏向と、きっと夜空のことも傷付けちゃったんだと思う。


 いま目の前にいる奏向は、宿題に夢中。勉強している間は何も考えてなくていいから、ホントならウザいだけの夏休みの宿題に、あたしは少しだけ感謝してた。


 そしたら、奏向が頭を掻きながら言う。

 

「なぁ遥香、この問題教えてくれよ」


「どれ?」


「ここなんだけど……」


 それは、英語の文法問題だった。


「そこは受動態だからbe動詞+過去分詞だよ」


「あぁ、そっかそっか!」


 ――受動態って、なんか今のあたしみたい。


 どっか仲間外れにされたような、置いてけぼりをくらったみたいな疎外感。


 あたしのいないところで、2人だけで勝手に盛り上がって、勝手に過去にされて。


 それになんか、譲られたみたいで…………こんなことして欲しくて、あたしは夜空に気持ちを伝えたんじゃない。


 ただ、自分がマジになってることに、馴れ合いなんかしたくなかっただけなのに。


 夜空には、あたしが惨めに見えたのかな……違うよね。あの子はそんな子じゃない。ただ純粋に優しいから、あたしに気を遣ってくれただけなんだろうな。


 自分の気持ちを、押し殺して。


 あたしには絶対出来ない。ってか絶対したくない。そんな半端な気持ちで、恋してない。


 これは夜空の考えを否定してるんじゃなくて、あたしと夜空の考え方の違い。夜空は、こらからもあたしと友達でいたいって思ってくれたんだ。


 きっとそうだ。だって、道端のゴミを片っ端から拾うような子だもんね。そんな子、今まで見たことないもん。



 居ても立っても居られなくなったあたしは、気付いた時には夜空にメールを送ってた。


 すぐに既読がついて、返信がくる。


 それを見て、立ち上がった。


「ごめん奏向、ちょっと行ってくる」

 

「え、どこに?」


「夜空と、喧嘩(バト)ってくる」


「はっ!? なんで……!?」


「全部終わったら話すから、奏向はここで大人しく宿題終わらせといて!」


「な、何するつもりか知んないけど、暴力とかはやめろよ……!?」


「そんなのする訳ないじゃん奏向のバカっ! アホ! ヘタレ!」


「お前……情緒どうしたんだよ……」


 今まで我慢して、見て見ぬ振りしてたイライラが、こんなところで爆発しちゃった。


 

 待ち合わせの駅に着くと、すぐに夜空も来た。


 流れてた汗を見たら、家から走ってきたんだってすぐ分かる。


「は、遥香ちゃん……! お待たせしました!」


「ううん。カラオケでも行こっか……」


「私、カラオケなんて初めてなので楽しみです……!」


 嬉しそうな笑顔も、どこか無理してるように見える。


 この子も奏向と、おんなじだ。


 また少しだけ、イラッとした。


 カラオケボックスに入ると、夜空は物珍しそうに部屋の隅々まで観察してた。


「遥香ちゃん……これはなんですか……?」


 デンモクを不思議そうに見つめる夜空。今どきカラオケを知らない高校生って、ホントにいるんだ。


「それは曲を入れるリモコンだよ。そこから入力してあの機械に転送すると曲が流れるの」


「へぇ……すごいです……! 遥香ちゃんはいつもどんな曲を歌うんですか……?」


「夜空ごめん……今日カラオケに来たのは、歌う為じゃないんだ……話がしたいの……」


「そ、そうですか……やっぱり……」


 やっぱり……その言葉からも、あたしが遊びに誘ったんじゃない事を、夜空も薄々感じとっていたみたいだった。


 テーブルを挟んで向かい合って座っていた夜空に、そのまま直球をぶつける。


「なんで奏向に、あんなこと言ったの? それって夜空の本心じゃないよね?」


 ――夜空は、下を向いてしまった。


 そのままの姿勢で、か細い声が返ってくる。


「ああするのが、一番だって思いました……」


「なんで?」


「遥香ちゃんとも、夜木君とも、ずっとお友達でいられる方法だと思ったからです……私がお休みの日さえ我慢すれば、夜木君とはまた学校でも会えますし、遥香ちゃんにも嫌われなくて済むって……」


「やっぱそうなんだ……じゃあ夜空の本当の気持ちは? もしあたしが奏向を好きじゃなかったら、夜空はどうしたい?」

 

「夜木君に、会いたいです……動物園にも、ライブにも……また一緒に行きたいです……」


 影になって顔は見えなかったけど、震えた声でそう言った夜空はたぶん……泣いていた。




 

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