番外編 図書委員の放課後『ナンパ』
これは――俺と白峰さんが毎週月曜日の放課後、図書委員会の仕事を終えてから、教室で読書をするようになってからの記憶。
彼女が1週間の中で一番楽しみな時間だと言ってくれた――俺にとっても特別で、誰にも渡したくないと思っていた非凡な放課後の物語。
***
「夜木君……あの……ひとつ聞いてもいいですか……?」
読書を終えて帰り支度をしていると、白峰さんがおずおずとそう尋ねた。
「ん? どうした?」
「夜木君はナンパって……されたことありますか?」
「え……? な、ないです……」
「そうですか……実は昨日、しつこいナンパにあってしまって、断ろうにも逃げ道を塞がれてしまい、すっごく困ってしまったんです……」
流石は白峰さんというべきか。そりゃこんな美貌の持ち主がモテない筈がない。
「そりゃあ災難だったな。大丈夫だったか?」
「はい……偶然近くを警察の方が通ったので大きく手を振ったら気付いてくれて、そしたらその男の人は逃げていきました……」
「無事で良かった……」
「またあんなことがあったら、私はどうしたらいいんでしょうか……?」
いじらしい瞳で助けを求める白峰さんに庇護欲が掻き立てられ、俺の自己肯定感が急激に上がる。
「『近寄んじゃねー消えろ!』って言えばいいよ」
俺が声を張ると、UFOでも見たような顔を浮かべる転校生。
「えぇっ……! む、無理です、そんなこと言えません……!」
「じゃあいい機会だし、練習してみよう。俺をそのナンパ男だと思って言ってみて?」
「で……でも……夜木君をそんなふうに思うなんて……無理です。嘘でも消えろだなんて、言いたくありません……」
もじもじとしおらしい白峰さんの様子に、俺はなぜか興奮を覚えてしまう。
「練習なんだから気にしなくていいって! それにこれは俺の為でもあるから」
また白峰さんが危ない目にあったら嫌だし。
「そ、それって夜木君はドMさんですから、私にも遥香ちゃんみたいに蔑んで欲しいってことですか……!?」
「ち、違うって……白峰さんが心配なだけ」
「でも……やっぱり言いたくないので、別の方法はないでしょうか……?」
「うーん……じゃあ、彼氏がいるって嘘つくのは?」
「嘘を、言ってもいいのでしょうか……?」
「大丈夫。だってその嘘は誰も傷付けてない優しい嘘だろ? それに白峰さんみたいな美人に彼氏がいない方が不思議なんだしさ」
「そ、そんな美人だなんて……夜木君に言われると、なんだか変な気持ちになります……」
俺から目を逸らし、嬉し恥ずかしといった様子で照れる白峰さん。
なんだよ変な気持ちって。こっちまで変な気持ちになっちゃうよ白峰さんっ!?
「もしそれでもしつこかったら、その時は警察呼びますって言えば大概の男は逃げていくと思うよ」
「わ、わかりました……」
「まったく、女の子は大変だよなぁ」
「私、てっきり夜木君も沢山ナンパされてるのかと思ってました……」
「どうして?」
「それは…………やっぱり秘密です……」
白峰さんは会話の途中で思い直したように口をつぐんだ。
「え……?」
「か、帰りましょうか……?」
「お、おう……」




