番外編 図書委員の放課後『CDショップ』
これは――俺と白峰さんが毎週月曜日の放課後、図書委員会の仕事を終えてから、教室で読書をするようになってからの記憶。
彼女が1週間の中で一番楽しみな時間だと言ってくれた――俺にとっても特別で、誰にも渡したくないと思っていた非凡な放課後の物語。
***
この日の読書が終わり、白峰さんと駅まで一緒に下校している時のことだった。
「てか俺、マジカンの新曲出てるらしいから帰りにCDショップ寄ろうと思うんだけど、白峰さんどうする?」
彼女はミラーボールのように目を輝かせた。
「じ、実は私も今同じことを言おうとしていたんです……! す、すごい偶然です……やっぱり私と夜木君は気が合うのでしょうか……?」
眩いばかりの瞳と共に向けられる、純粋で一切の含みを持たない気恥ずかしい台詞に俺の心臓が高鳴った。
「そ、それなら一緒に行こっか……?」
「はい、ぜひ……!」
このサブスクが横行する世の中でCDショップはどうやって利益を出しているのだろうと、少し前までの俺は思っていた。
でも一度アーティストのファンになると、CDが欲しくなってしまうのだから不思議だ。決して安い物ではないのに、それを本来の用途で使わずとも、飾るだけでも満足できてしまう。
絶世の美女を隣に、これはまさか放課後デートなのでは? なんて思いながら店内を歩く。
「白峰さんは、マジカンのCDどれくらい持ってる?」
「普通に販売されているのは全部持っていると思います……」
「流石だな……俺も見習わないと!」
「で、でも大事なのはいくらお金を使ったかではなく、愛だと思いますよ……?」
まったく、彼女らしい台詞だ。
「愛か……白峰さんの言う愛って何?」
彼女は目を泳がせながら顎に手を当てる。
「い……いざそう聞かれると、困ってしまいますね……な、なんなのでしょうか……?」
「ハハハ……いやいや俺に聞かれても」
「すみません……明日までに考えてくるので、もう少し待っていてくれますか……?」
「分かった。じゃあまた明日聞かせて貰うことにする。でも考え込み過ぎて前みたいに夜更かしまでしなくていいからな?」
「は、はい……!」
CDを購入して店を出ると、街は夕焼けが綺麗だった。
駅まではあと3分くらいのところまで迫ると、白峰さんの歩みが道端で突然止まる。
「ん、どうした?」
「私……気付いちゃいました……」
「何に?」
「愛です……!」
「と言いますと?」
黄色いレジ袋から円盤を取り出した転校生。
「愛とは、このCDです……!」
「ごめん、俺にも分かるように教えてくれ」
「これは曲を聴く為の道具ですが、他にももっと安く聴く方法はあります。でもそれでもファンがCDを買うのは、それが応援するアーティストにとって1番の応援になると知っているからです。良い意味で目的の為に手段を選ばないこと、それが愛なのではないでしょうか……!?」
「なるほど……深いな……でもそれって結局お金がかかるんじゃ……」
「お、お金を使わなくても、お友達にお薦めしたり、出来ることは沢山あると思います。個人で出来る最も簡単な方法がお金を使うというだけなんです……!」
「今なんかめっちゃピンときたわ。白峰さんすげぇ……」
「そ、そんなこと……ありません……」
照れた様子の白峰さんは、どこか可愛らしくてこのまま家に持って帰りたくなった。いや変な意味じゃなくて。
――いやマジで。




