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メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!  作者: 野谷 海


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第30話 辛い





 白峰さんの姿が見えなくなってから、俺はその場からしばらく動くことが出来なかった。


 なぜ、引き留めなかったのか。


 それよりも先ず、なぜ俺はまだ告白もしていないのに振られてしまったのか。


 そんなことがグルグルグルグルと頭の中を駆け巡りながら、ただ呆然と立ち尽くす。


 涙は出ていないのに、身体が震えてきて、悔しさと切なさに押し殺されそうになる。


 ――俺は人生で2度目の、失恋をした。


 1度目は幼馴染の想いに気付けず、2度目は訳も分からぬまま、何もできずにただ失った。


 これ以上は踏み込んでくれるなと、釘を刺されてしまった。


 こんなの、どうすれば良かったんだよ。確かにデートも碌にエスコート出来ないダメな男だったけれど、白峰さんはそれでも楽しいと言ってくれていたじゃないか。


 あれはやっぱり、嘘だったのかよ。


 俺に気を遣ってくれていただけだったのかよ。


 もう……何も考えたくない。


 今日は帰って眠ろう。


 このままだと、やるせなさから誰かに八つ当たりをしてしまいそうだったから。



 ――家に帰ると、もう夜の9時を回っていたというのに、遥香が出迎えてくれた。


「おかえり〜、ライブどーだった?」


「ああ、よかったよ……」


「そうじゃなくて、あたしが聞きたいのは夜空とはどうだったって意味なんだけど?」


 それは今、一番聞かれたくない質問だ。


「ごめん、ちょっと1人にしておいてくれ……」


「え……夜空と、なんかあったの……?」


 心配そうに見つめる遥香の顔が、余計に俺の心を抉った。


「頼む……」


 そう吐き捨てて遥香に背を向けると、俺は自分の部屋へ直行した。


 部屋の灯りもつけず、頭まで布団にくるまって、思考を無にする。


 それでもやっぱり、一瞬でも気を抜けば白峰さんの笑顔が脳裏に浮かぶ。考えたくなくても、頭が勝手に映像を映し出してしまう。


 

 とうとう我慢していた涙が溢れそうになったその時だった。なんの前触れもなく、部屋の扉がガチャリと開く音がした。


「奏向……」


 呼ぶ声と共に、カチッと部屋の電気を点けられたのが、布団越しでも明暗の変化で伝わる。

 

 掛け布団から顔の半分だけ出すと、幼馴染が不安そうにこちらを見つめていた。


「頼むよ……今は1人にさせてくれ……」


「イヤ……」


「なんでだよ……たまには俺の言うことも聞いてくれよ……」


 遥香はベッドに近付くと、傍で腰を下ろした。


「なんで1人になりたいの?」


「それは……いま誰かと会うと、八つ当たりしそうになる。普通でいられる自信がない……」


「じゃあ気にしなくていいよ。あたしには、八つ当たりしてもいいから……普通じゃなくても、もし酷いこと言われても、絶対に奏向を嫌いになんて、なってあげないから」


「俺が嫌なんだよ……それに、泣き顔とか見られたくねーし……」


「それも大丈夫だよ? 奏向の泣き顔なら、きっと奏向ママの次にたくさん、あたしが見てるから……」


「だからそれは、ガキの頃の話だろうが……」


 多分俺は、既に泣いていた。


「じゃあさ、今は……子供になっちゃいなよ。今日だけはいじめたりしないから……あたしと奏向の……2人だけの秘密にしてあげるから……だから、おいで……?」


 遥香は両手を広げると、今だけは到底メスガキとは思えない、母親のように慈愛に満ちた表情を見せた。


 それでも俺は、まだ意地を張る。


「平気だって……一晩寝れば元気になる……」


「もう、嘘つかんでいいとよ……? 奏向には、いつでもあたしがおるけん……」


 そう言って、遥香は覆い被さるように俺の頭を抱きしめた。


 温かくて、安心して、つい本音と涙が、ボロボロと漏れ出る。


「辛い……」


「うん……」


「どうしていいか、わからん……」


「うん……」

 


 俺が嗚咽混じりに何を言っても、遥香はただ肯定し、包み込むように頭を撫でてくれた。そのおかげで気持ちを吐き出せた俺は、数分で平静を取り戻せた。


「ありがとう。だいぶ楽になったから、もう大丈夫だ……」


「もうちょっと泣いてても良かったのに……」


 遥香はそう溢しながら、もの寂しさを感じたように体を離した。

 

「こんなことをお前にさせちまうなんて、やっぱ俺は男としてダメダメだな……」


「あたしが勝手に来ちゃったんだから気にしなくていいよ。ほっとけなかったし……」


「俺……白峰さんに……振られた……」


「そっか……」


 遥香は下を向いてしまった。


「もう2人では、会いたくないって……」


「そっか……」


「悔しいのに、何も言えなかった……」


「そっか……」


「ごめん、こんなこと遥香に相談するのは間違ってるよな……」


 遥香は「ううん……」と首を振ると、ポツリと呟く。


「たぶんそれ、あたしのせいやけん……」


「今なんて?」


「なんでもない……そうだ。あたしね、奏向ママとご飯作って待ってたんだよ? 一緒に食べよ?」


「今日家に残ったのはその為か……」


「うん。だから奏向の嫌がることはしないって言ったでしょ?」


「遥香……お前、ホントいい奴だな……」


「それは、どうだろね……」


「どういう意味だ?」


「ううん……肉じゃが作ったんだけど、味付けミスっちゃって、ちょっとしょっぱいんだけど、いっぱい泣いたし丁度よかったかもね?」


 その後、遅めの食卓についた俺は遥香の作ってくれた晩飯をご飯を3杯もおかわりして、満腹になるまで味わった。


 その肉じゃがは確かに、やけに塩辛かった。

 

 


 

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