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メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!  作者: 野谷 海


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第20話 転校生に申し訳ない






 入園前から漂う獣臭、多くの家族連れ。


 夏休みの動物園は、人でごった返していた。


 久しぶりに見る風景に小学校の遠足を思い出したりもして、ついつい感傷に浸ってしまう。


 ――数分後に訪れる絶望なんて知らずに。


 よりにもよってゲートをくぐってから園内マップを確認した俺たちは、唖然とする。


「し、シマウマが……いない……!?」


「ガーン……」


 白峰さんは、およそフィクションの世界でしか聞いたことのないような嘆きを上げた。


「ごめん、俺の調査不足だ。こんなことなら先にネットで調べておけば良かった……」


「そ、そんな、夜木君のせいじゃありません! 私がちゃんとしないのがいけなかったんです。こちらこそすみませんでした。私の為に浮気までさせてしまったのに……」


「うん、その言い方はやめよっか? 周りの人が驚いて俺から子供を遠ざけてるから……」


「で、でもほら、ここにはパンダさんがいますよ……? 同じ白と黒ですし……!」


 優しい白峰さんは、フォローになっているのかいないのか分からない代替案を提示した。


「いや、やっぱ出よう。今からシマウマのいる動物園を探すよ!」


「で、でもここのチケット代も夜木君に出して頂きましたし、そんなの申し訳ないです……」


 心苦しそうに萎縮する白峰さん。


 こんな時、どうするのが正解なのだろう。幼馴染以外の女子とデートした経験皆無の未熟な俺は、その解を導き出せずにいた。


 故に残った選択肢は――先延ばし。


「じゃあ……また今度シマウマを一緒に見に行くっていうのはどうだろう……?」


「は、はい……! それがいいです……! ぜひ、そうさせて下さい!」


 彼女の弾けるような満開の笑顔は、ついさっきまで暗雲立ち込めていた辺り一面を、嘘のようにカラリと照らした。


 ――よかった、助かった。


 どうやら、先延ばしというのは必ずしも悪とは限らないらしい。なんとか窮地を乗り越えた俺は静かに、今後デートの前には下調べを怠らないことを心に誓った。

 


 順路に沿って進んでいくと、白峰さんは嬉しそうに俺の肩を数回叩き、前方を指さした。


「見てください夜木君あそこ、いきなりパンダさんのお家ですよ……!」


「お、ホントだ。でもめっちゃ並んでるな」


 パンダを一目見ようと集まった人々がズラッと並ぶ長蛇の列。その最後尾に設置された看板には、60分待ちと表示されていた。


「やっぱりパンダさんは人気者ですね?」


 白峰さんは軽く前のめりに、ニコッと微笑みながらこちらへ視線を向けた。


 うわぁ、こりゃあ反則だ……パンダすまん。俺はお前よりも、この笑顔をずっと見ていたいと思ってしまった。


「せっかくだし、並ぼうか?」


「はい……!」


 列に並んだ俺に、またもや試練が訪れる。


 待ち時間――それは遊園地デートなどでは必ずといって付いて回る、世のカップルにとって運命の分かれ道。ここで彼女をいかに退屈させることなく間を持たせるか、まさに男の力量が試される瞬間なのである。


 聞いた噂によると遊園地に遊びに行った後に別れるカップルが多いのは、これが理由なのだとか。


 考えろ。俺に1時間も白峰さんを楽しませるトークスキルはあるか?


 ――いやない。


 じゃあ、何か暇つぶしになるようなアイテムは? そうだ、こういう時こそ本は?


 ――家に忘れた。


 いっそ俺のハラキリショーでも始めてやろうかこの野郎……なんて自暴自棄になっていると、隣から不思議そうな顔が向けられる。


「夜木君……?」


「あ、ごめん、ちょっと考えごと……」


「大丈夫ですか? ご気分が悪かったら列を出て休みますか……?」

 

「大丈夫大丈夫、元気だから!」


「よかったです。パンダさん楽しみですね?」


 なんだか今日の白峰さんは、妙にテンションが高い気がする。俺の勘違いかもしれないが、心なしか顔もほんのりと赤いような……

 

 

 30分ほど経ち、もうすぐ建物の中へ入れそうだと思ったその時、白峰さんは気が抜けたようにフラフラと俺にもたれ掛かった。


 何事かと思い呆気にとられながらも、俺は咄嗟に彼女を両腕で支えた。


「ど、どうした!?」


「す、すみません……少しクラクラしてしまって……」


「それって……」


 軽い熱中症の症状だった。


 そりゃそうだ。そこそこ気温の高い屋外で、長いこと水も飲まずに立ちっぱなしだったんだから。


 なぜ俺はそんな事も配慮出来なかったんだ。


「大丈夫です。このくらい、我慢できます……」


「列を出て日陰で休もう」


「でも……せっかく並んだのに……」


「ごめん、ちょっと触れるぞ?」


 俺は人生で初めて女性をお姫様抱っこした。


「え……!? や、夜木君、恥ずかしいです……」


「少しだけ我慢してくれ」



 日陰のベンチまで連れて行き、水分補給をしてしばらく涼んでいると、白峰さんはある程度落ち着いた。


 並んで腰掛けていた白峰さんはフーっと、息を吐いてから言う。


「夜木君、ありがとうございました。もう大丈夫です」


「ごめん俺……ホント慣れてなくて……」


 あまりに情けなくて、彼女と目を合わせるどころか、顔を上げられない。


「な、なんで夜木君が謝るんですか……? 悪いのは私なのに……」


「俺がもっと気にするべきだったんだ。シマウマも、熱中症も、ホント俺、ダメダメだ……」


「夜木君は、ダメなんかじゃないです……」


「やっぱり大事をとって、今日は帰ろう」


「嫌です……」


 ――意外だった。


 彼女の口から出たNOは、ここ数ヶ月の付き合いで、これが初めてだったから。


「でも……」


「私、今日のこと、すっごく楽しみにしてたんです……本当はシマウマさんよりも、夜木君に会いたかったんです。今日1日、たくさんお話ししたかったんです……」


 これは、純粋に喜んでいいのだろうか。


 俺なんかには、勿体無いお言葉だ。


「じゃあ日の下に出るのは、また熱中症になるかもだから……ここでよければ、気の済むまで話そう」


 俺の提案に、白峰さんは潤んだ瞳をキラキラとさせて答える。


「はい……! じゃ、じゃあ早速ですけど、夜木君の好きな食べ物はなんですか……!?」


 こうして俺たちは、閉園間際まで動物を一切見ることなく、時間も忘れてたわいもない話を続けた。


 デート内容としては大失敗かもしれないが、白峰さんとの距離は縮まった気がしていた。


 日も落ちそうになった頃、白峰さんは畏まった様子で話題を変えた。


「じ、実は夜木君にお願いがあるんです……」


「なに?」


「前に言った、マジカンのライブのチケットが1枚余っていて……よかったら一緒に、行きませんか……?」

 

「え、誰かと行くつもりで2枚とったんじゃないのか?」


「夜木君と行けたらいいなあと思ってダメ元で抽選を受けたら本当に当選してしまって……」


 夕日が降り注いでいても、恥じらっているのが伝わってきた。


「でも俺なんかでいいのか……? 今日の件で、白峰さんを楽しませられる自信を無くしたっていうか……持田みたいにもっと慣れてる奴と行った方が……」


「夜木君がいいんです……夜木君じゃないと、ダメなんです……!」


「どうして……?」


 何か考えてた訳じゃない。駆け引きをしようとしたのでもない。ただ率直に、思ったことが声になった。

 

「分かりません……」


「え……?」


「本当に分からないんです……でも、夜木君がいいんです……夜木君が落ち込む必要なんてないんです。だって私、今日がまだ終わって欲しくないって思ってます。夕日がこれ以上沈まないで欲しい、夜になんかならないで欲しいって……そう思って、ます……」


 ――俺も同じことを今、思った。


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