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メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!  作者: 野谷 海


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第14話 幼馴染を諦める





 ――困った。


 どうやら俺は、恋をしてしまったらしい。


 本来ならば何も考えずにダラダラと過ごしていたであろう夏休み初日、寝ても覚めても白峰さんのことばかりを考えてしまっていた。


 今まではあの生意気な幼馴染を()()()()()()と、あれほど思っていた筈なのに、これは一体どういう了見なのだろう。


 人を好きになるって、不思議な事だらけだ。


 何せ遥香以外の人を好きになったことなどないものだから、これがよくある事なのか、今後どうすれば良いのかも、全くもって分からん。


 それより……本当にこれでいいのだろうか。

 

 まるで遥香から白峰さんに乗り換えるみたいで、心の片隅では遥香に申し訳ないとすら思ってしまう自分もいる。


 でも、告白してもどうせ振られていたんだ。


 それに、あのまま実りのない恋を続けるのは、精神衛生上よくないに決まっている。


 諦めも肝心なことだってきっと世の中には沢山あって、その度により良い選択肢を選ぶことこそが、社会で生き抜く為に必要なスキルであることは間違いない。


 よしっ……俺はメスガキ系幼馴染をきっぱり諦めて、前に進もう。


 これからは高校生らしい、普通の青春を送るんだ。


 そうと決まれば、白峰さんとどうやって友達以上の関係へと距離を縮めるべきか……まずはそこから考えねば。



 気合を入れてベッドから起き上がった俺は、シャドウボクシングと腹筋から始めてみた。意味があるのかは知らん。ただ、何かしていないと落ち着かなかったんだ。


 次は腕立てでもしようかと床に手をつくと、部屋の扉が雑にノックされた。


「奏向~、遊びに来たよ~。入っていい?」


 さっき諦めたばかりの、幼馴染の声だった。


「今は忙しいから邪魔すんな」


「え、珍しい、もう起きてるの!? まだ朝の9時だよ!?」


 驚声と共に、ガチャリと扉が開く。


「フンッ、お前、フンッ、人の話、フン、聞いてたか? フンッ」


「だってゲームしたいもん。って、何してんの……? ガチでキモいんですけど……」


 汗だくで腕立て伏せに励む俺を見て、いつものように愚弄するのではなく、素でドン引きしている遥香。


「ゲームなら勝手に遊んでていいぞ。俺は、フンッ、忙しい、フンッ」


「どういう風の吹き回しか知んないけど、慣れないことすると筋肉痛でせっかくの夏休み台無しになっちゃうよ……? 怪我とかしたら余計に。だからやめときなって、そういうの似合ってないし」


 諭すように、遥香は言う。

 

 言われてみれば確かにそうだ。俺はすんなりその助言を受け入れ、うつ伏せで倒れ込んだ。


「ぷっはー、もう駄目だ、しばらく起き上がれる気がしない……」


「ほら、だから言ったじゃん。奏向ママからタオル貰ってきてあげよっか?」


「あ、ああ……助かる……」


 満身創痍の俺はなんとかベッドに背をもたれさせて座った。すぐに戻ってきた遥香からタオルを受け取ろうと腕を伸ばすも、その手は虚しく空を切る。


「じっとしてて?」


 俺の頭にタオルを被せて、わしゃわしゃと両手を動かす遥香。


 母親に髪を拭いてもらう風呂上がりの子供に逆戻りしたみたいで、形容しがたい恥ずかしさに襲われた。


 だけど……どこか安心する。


「おいやめろよ、このくらい自分で出来るって。それにお前、いつも汗とかキモいって言ってなかったか?」


「いいから動かんとって!」


「なんなんだよ……」


 タオルの合間から覗く、俺を見下ろす幼馴染は、いつにも増して楽しげにニヤついていた。


「はい、あとは自分でどーぞ?」

 

 そう言って遥香が手を離すと、不覚にも物寂しさを感じてしまう。


「ああ……さんきゅ……」


「え、なんか寂しそう、もしかして、もっとして欲しかったとか?」


 普段通りの揶揄うような煽りに、条件反射で声が張る。


「そんなわけあるかっ!」


「どーせならシャワー浴びてきたら? そしたら、またしてあげてもいーよ……?」


 女子がシャワーを浴びてこいなんて言うの、ちょっとエロいな。


 ――いかん、これもまた夏のせいだ。


 俺はもう、遥香を諦めるって決めたんだから。


 邪念を捨て去って、全てリセットしよう。


「風呂行ってくる」


「なんか奏向、今日はやけに素直じゃん」


「朝からお前と言い争いして無駄に疲れたくないからな」


「は? 喧嘩うってるねそれ?」


 ギロリと睨みをきかす遥香を背に、俺は部屋を出る。


 熱めのシャワーを浴びたら、頭が冴えてスッキリした。運動したのも効いているのだろう。



 部屋へ戻ると、遥香はひとりでテレビゲームをしていた。


「あ、やっと戻ってきた。早く相手してよ。コンピューターじゃ弱すぎて相手になんないし」


 ひと息つく暇もなくコントローラーを渡され、俺はベッドに腰掛けた。


「俺だっていつもお前の相手になんかなってねーだろ」


「それでもサンドバッグよりは素人の方がマシじゃん」


「せめてプロとアマチュアくらいの差だと言ってくれ……」


 幼馴染は得意げにしたり顔を浮かべた。


「そうだとしても、やっぱチャンピオンには天地がひっくり返っても勝てないよねぇ~?」


 ――そうだな……俺はお前には勝てない。

 

 初恋相手であり、永遠のライバルだとも思っていたのは、どうやら俺だけだったようだ。最初から、釣り合ってなどいなかったんだ。


「アマチュア選手の意地、みせてやるよ」


「じゃあ今日は特別に奏向がステージ選んでいいよ? チャンピオンの余裕見したげる」


 相も変わらずボコられ続けること、数時間が経った。


「ざぁこ♡」


「はいはい、俺はいくら頑張ってもお前に敵いませんよ……そろそろ、腹減ったな」


「じゃあどっか食べに行く?」


「そうだ、女子ウケしそうな飲食店とか教えてくれよ」


「奏向もやっとそういうこと気にしてくれるようになったの?」


「毎回ラーメンって訳にもいかないしな」


「なんか嬉しいかも。ねえ……どうして急にそんなふうに思ったの……?」


 何か含みがあるようなあざとい上目遣いを向けられ、返答に少し悩んだが、もう隠す必要もないと思い打ち明けることにした。

 

「実はさ、俺、今好きな人がいるんだよ」


 目をカッと開き、どこか照れたようにも見える幼馴染。


「ま、前に聞いたよ……あーあ。ホントはもっと雰囲気あるとこで聞きたかったけど、ま、それも奏向らしいか……」


「ん? そうじゃなくて、前言ったのとは違う、新しく好きな人ができたんだ」


「は?」


 遥香の顔から、表情が消えた。


「なんでそんな怖い顔すんだよ。俺だって恋くらいしたっていいだろ」


「え、ちょ、そんな、嘘でしょ……!? てか、まって……まさか、夜空が好きになったとか言わないよね?」


「なんで分かったんだよ。お前すげーな。さすがは付き合いの長いおさ――」

 

「ふざけんな!!!!!!」

 

 ――全身から放たれたような咆哮だった。


 遥香がここまで激昂した姿は、今まで見たことがない。蛇に睨まれた蛙のように動けない俺へ向け、取り乱しながらも続ける。


「なんでぇ……ねぇ、なしてそげんこと言うと……?」


 その声は次第に細くなっていき、終いにはぼろぼろと涙を流し始めた。


 ひくひくとしゃくりあげる遥香に戸惑いを隠せず、しばし俺は傍観するしかできなかった。


 

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