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プロローグ
春風に乗って、桜の花びらが吹き始める頃。
本屋に勤務している私は、「本への知見を広げて欲しい」と言う店長の助言により、土曜日の昼下がりに夏川図書館に来ていた。
本が読める席を探している最中、図書館の庭園が見える窓際の二人席に座り、黒縁眼鏡をかけて皺ひとつない白いシャツに黒いカーディガンを羽織っている男性が、偶然目に入る。割と、几帳面で真面目な人なんだろうか。
彼は少し顔を上げると、真っ直ぐに下ろされた髪から切れ長の目が、わずかに覗いていた。どこか雰囲気のある顔立ちから、多少の近寄りにくさを感じる。
半ば諦めかけて別の席を探しに行こうとした瞬間、彼の机に目がいった。
そこには、——誰かの手作りであろう押し花で作られた栞。
私はそれに気づいた瞬間、恋に落ちた。
初連載かつ新連載です。
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