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第81話

 特訓を終え、ウェリカと別れた俺はそのまま図書室へと歩を進めていた。「おい今度はどこに行く気だ」なんか銀色で妙にきらきらしている髪を長く伸ばして、何の変哲もない無地の白いワンピースを着ている変な幼女がついてきているが、極力気にしないように努める。


「アルドリノール先生の後ろにいる銀髪の子って……」

「誰だろーね? 転校生?」

「転校生にしては幼すぎないかな……?」

「確かにそーだね。だとすると――」

「すると……?」

「アルドリノール先生の隠し子だよ!」

「んな訳あるか!」


 廊下で談笑している女子生徒の会話を盗み聞きする気などさらさら無かったが、あらぬ誤解をされてしまいそうになっていたので一瞬立ち止まって後ろを振り向きながら声を出した。


「なら誰なんですか! その子は! 恋人ですか! ロリコンですか!」

「ロリコンじゃねえって言ってんだろうが!」

「じゃあ誰なの!」

「ちょ、ちょっとみっちゃん……!」


 問題発言をした女子生徒にどしどしと駆け寄られながら失礼な言葉を浴びせられたのでつい半ギレになって声を荒げてしまった。そのせいか向こうも少し怒っているようだったが怒りたいのはロリコン呼ばわりされた俺の方だ。もう一人の大人しそうな生徒は突如落とされた戦いの火蓋を前におどおどしてあわあわしていた。


 誰なのか言うのは簡単だ。しかし易々と言ってしまっても「我はドラゴンだ」言っちゃたよこいつ。ドヤ顔で言っちゃったよ。


「ドラゴンなの!?」

「ああ。しかもこの世に存在するあらゆるドラゴンの頂点に立つドラゴンだ」

「証拠は?」

「なぜ貴様なんぞに示さねばならんのだ」

「いいから示しなよ」

「ちょっとみっちゃん……!」


 みっちゃんと呼ばれている女子生徒は短めの茶髪を外側に跳ねさせており、瞳の大きな目も相まって毛の長い小型犬を連想させる容姿をしていた。しかしその一方で胸は小型なんてレベルでは到底無く――そんな所は見なくていい。いや、ロリコンじゃないならここは見るべきなのか? 何を考えているんだ俺は! とりあえず少し離れた場所に立っている大人しそうな方の生徒に目をやった。フレームの細い眼鏡を掛けており、長めの藍色の髪を三つ編みにしている小柄な女の子だった。この子もこれまた――とりあえず自分で自分の顎を軽く殴っておいた。


「我の歯を見ろ」


 モンブランは面倒そうに自らの唇を引っ張り、みっちゃんに歯を見せた。俺も横から見てみたが、上下も前後も関係なく、全ての歯が犬歯のように鋭く尖っていた。


「いや、歯だけじゃ証拠にならないでしょ」


 みっちゃんはモンブランに正論を言い放った。


「注文の多い奴だな。ほら」


 モンブランはやれやれと口に出しながら背中から白く美しく逞しい翼を伸ばした。大きさこそ身体のサイズに合わせてか小さめになっているものの、形自体は紛れもなくドラゴンのそれであった。


「これでいいだろう」

「え、あ、ま、マジ!?」

「我はずっと本当の事しか言っていない」


 みっちゃんが突如生えてきた翼を見て愕然としていたが、俺もまたそれを見て、こいつは普通の人間じゃなくてドラゴンなんだなと実感させられていた。


「触っていい?」

「軽々しく言うな」


 モンブランは首を横に振りながら言うと再び翼を背中に収納(?)した。髪がさらりと揺れて、シャンプーの匂いだろうか、春に咲く花のような香りが鼻腔をくすぐった。


「我はモンブランだが、貴様は何者だ」


 そしてモンブランは、みっちゃんをじっと見ながらそう言った。


「私はミリアで、この子は――」

「セラフィーナ、です……」

「そうか。じゃあな」


 二人の名前を聞き終え、モンブランは俺を一瞥すると再び廊下を歩き始めた。


「ちょ、ちょっと待って!」


 みっちゃん――ミリアが慌てたようにモンブランの進路を先取りして道を塞ぐように両手を大きく広げて立ちはだかった。


「何だ」

「いや、このまま行く気!?」


 どうする? と言いたげな面倒そうな顔を隠そうともせず、モンブランが俺に振り向いた。


 ……どうしようか。

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