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授業8 命名

 翌日。授業開始の時刻を告げる鐘が、校内に鳴り響いた。


 教室に、四人が席に座っている。いつも通りの光景のようにも思えるが、教室を纏う空気がどことなく、不穏だった。


 もちろん、レイノとシンシュさんの間に起こった一件の事もあるだろう。レイノ曰く、シンシュさんと和解する事は出来たらしかった。ちなみにシンシュさんは本来ウェリカの最近の様子を知るために学校へと訪れたらしく、ウェリカが元気に過ごしていると知ると言葉少なにカノンちゃんに乗って学校を去って行った。去り際の顔には、いくつもの感情が入り混じった表情が浮かんでいた。


 話をレイノに戻すが、それを説明している際の表情はどこか優れず、まだ燻っているのではないかと感じずにはいられなかった。しかしだからといってそれ以上深く理由を追及する事は俺には出来なかった。いや、したくなかった、というのが正解なのかもしれない。


 何より、これ以上レイノを「魔物化現象」の事で苦しめたくないという思いが、俺にはあった。レイノが実際あの時にどんな事をしてしまったのかは関係ない。彼女もまた、悲劇に巻き込まれてしまった一人だ。


 だから、唯一残ったレイクレイン公爵家の人間として「魔物化現象」の真相を明らかにし、元領民である彼女の心の曇りを晴らす事が出来ればいいなと、そう願っている。


「先生」


 俺が改めて心の中でそう決意を固めると、ストレリチアが面倒そうに手を挙げてきた。


「誰も触れないようだからボクが触れるけど、彼女は何者なんだい。転校生――って感じでもなさそうだけど」


 ストレリチアがちょうど四人の間、例えるならば四角形の中心に、机も無しに椅子に座っている銀髪の少女、というより幼女を指さしながら尋ねてきた。


「やはり自ら名乗るべきか。いいだろう」


 幼女――魂壊竜はすっと立ち上がり、まるで視界に入っていないかのように俺をスルーし、黒板の方へとずけずけと向かって行く。ちなみにガランスは「僕の方でも色々と調べてみるよ」と言ってブーゲンビリアへと帰っていった。曰く王家御用達の豪華客船で帰るらしかった。気になったので運賃を尋ねてみたが、少なくとも俺にはとても手が出せる金額では無かった。


「我は魂壊竜だ」

「コンカイリュウ? 変な名前だね」


 魂壊竜はチョークを手に取り黒板に名前を書きながら名乗った。それを見て聞いて、ストレリチアが率直な感想を漏らす。


「名前っていうか種族名でしょそれは。ウェリカ・クラウディアみたいな名前は無いの?」

「無い」


 ウェリカの珍しい冷静なツッコミにも、魂壊竜は顔色一つ変える事無く答えた。


「不便じゃないのかしら?」

「不便に感じた事は無い」

「本当?」

「こんなくだらん嘘を吐いてどうする」

「わたしは…………C-13……」


 本当かよと俺も口には出さないで思っていると唐突にオルシナスが可愛い眼差しで俺を見ながら謎の単語を言ってきた。シーサーティーン? どういう意味なのかさっぱりわからない。


「わたしは……研究所で……かつてそう呼ばれていた……」

「そ、そうなのか……」


 何だか重い話のようにも思え、どう反応したらいいのかわからなかった。ていうかなぜこのタイミングでこんな事を俺に言ったのだろうか。考えても、答えは出て来なさそうだった。


「そういう呼び名ならボクに――」

「だったら、あたしが名前付けてあげるわ!」


 ストレリチアが微妙に笑いながら何か言おうとしたみたいだったが、ウェリカの声にかき消されて口を閉じてしまった。


「必要ない」

「モンブランっていうのはどうかしら?」

「我は山ではないし栗でもない」

「え、どういう事?」

「知らないのか。モンブランを」

「あ、うん……なんか頭にぱっと思い浮かんだって言うか……」


 ウェリカと魂壊竜は微妙に噛み合わないやり取りをした。必要ないって言われた直後に名付けようとしたウェリカと、モンブランと言うウェリカ自身も知らないであろう謎の単語の意味を知っているらしい魂壊竜。俺も色々とツッコみたいけれども、とりあえず授業を始めてもよろしいでしょうか。


「モンブランは白い山という意味だし、ちょうど良いんじゃないかな」

「我の髪は白髪ではない! 銀髪だ!」

「どっちも似たようなものだろう」

「似てない!」

「モンブランって何だか可愛いわね。モンブラン!」

「犬みたいに我を呼ぶな!」

「オルシナスって……呼んで……アル……」

「オルシナス!」


 可愛くお願いされてしまったのでつい呼んでしまった。だけど口角を少しだけ上げるオルシナスの可愛い表情が見られたからいいか!


「やはりロリコンだな貴様!」

「どこを見てそう思ったんだよ!?」

「今の光景を見てだ!」

「はあ!?」

「あの……授業……始めませんか……?」


 もう耐えきれない、と言ったように、レイノが控えめながらも、よく通る声で言った。


 大変申し訳ございませんでした。


 でも……こうしていつも通りの事を言ってくれて、どこか嬉しくも感じた。


「そうだ。我は授業を受けに来たんだ。さっさと授業を始めろ」


 どの口が言ってんだよ。


 とりあえず、こいつの事はモンブランと呼べばいいのだろうか。


「モンブラン?」

「我の名前を軽々しく呼ぶな」


 ダメらしかった。

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