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第77話

「そろそろ自分の部屋に戻ったらどうなんだ」


 図書室から借りてきた薄めの歴史書を一冊読み終えてもウェリカが戻ろうとしないので、本を閉じて声を掛けた。ウェリカはまるで自分の部屋かのようにベッドに寝転がりクッションを天井に放り投げたりしてだらだらとごろごろしている。


「何よ。あたしが居ると何か不都合があるっていうの?」

「不都合も何も、ここは俺の部屋だ」


 むすっとした顔で口答えをしてきたので俺も毅然とした態度で返す。


「宿に泊まってるときはいつも一緒に寝てるじゃない」

「宿は金も掛かるし子ども一人じゃ泊めさせないところも多い。それにお前は貴族の娘なんだし、万が一って事もある」

「ふーん。あたしの事、心配してくれてるの?」

「当たり前だ」

「あ、うん……」


 きっぱりと俺が言うと、ウェリカはしどろもどろになり始め、ベッドからゆっくりと起き上がった。


「あの……その……ありがと」

「気にするな。もしも――」


 お前が危険な目に遭ったら――と言おうとした瞬間、全身をひりつかせる異質で異常な魔力を周囲から感じ取り、咄嗟にウェリカを押し倒して覆い被さる体勢になった。


「へぇ!? ちょっとまだ、心の準備が――」

「感じないか? お前も、この……」

「感じる! 感じるからちょっと離れて!」


 さすがにこれほど異様な魔力だと、ウェリカでも感じるか。俺は言われた通り彼女から離れると、ドアに注意を向ける。


「ウェリカ・クラウディアはいるか! いるな!」


 まもなくドアが外側から開かれ、その先に立っていたのはブーゲンビリアの王宮でカトレアと戦っていた銀髪の幼い少女だった。


「何しに来た!」

「落ち着け。攫いに来た訳では無い」


 まだウェリカを諦めてなかったのかと心の奥底から怒りの感情が噴き出し、思わず声を荒げてしまったが、女の子は意に介さず、平然とそう言った。


「貴様らはどうやらブーゲンビリアに行きたいらしいな。理由は知らんが我が連れて行ってやってやるぞ」

「どうしてそれを……!?」


 その話はまだ他の誰にもしていないはずだ。なのになぜ、この子が知っているんだ。


「魔法を使って、ずっと見ていたからな」

「ウェリカを?」

「ああ。我は幼い少女を何よりも愛しているからな」


 女の子は何やらとんでもない事を口走った。


「ロリコンかよ!?」

「ああ。貴様もそうではないのか?」

「断じて違う!」

「違うのか」


 女の子は期待外れだ、と言わんばかりにため息をついてきた。


「それより君は何者なんだ?」

「よくぞ聞いてくれたな。我は――こんかいりゅうだ」


 女の子は、自らをそう名乗った。


「魂壊竜……」


 俺はその名前に、心当たりがあった。


 それは――。


 ブーゲンビリアを一度滅亡させかけた、ドラゴンの名前だった。

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