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第73話

 日中あれだけ降っていた雨がすっかりと上がり、数多の星々が煌めく夜空を自室の窓から一瞥して、俺は思考に耽る。


 ブーゲンビリアにある研究所まで行けば、何か新しい事が明らかになるのかもしれない。問題はどうやってブーゲンビリアまで行くか、だ。ブーゲンビリアとこの国――バキア王国は、クラウディア領にそびえ立つ山脈によって隔たれている。山々はいずれも標高が果てしなく高く、乗り越えるのは絶望的だ。


 だったら船で海を渡るか? となるのだが、航路で行くとなると時間が掛かりすぎてしまう。それだとちょっとした休日に行く、みたいな事は出来ないだろう。自分の都合を優先して教師の職務を放り出すなんて事は出来ないし、するつもりも無い。とはいえ他に行く手段と言えば――。


「あんた、姉上たちが飼ってるドラゴンに乗ってブーゲンビリアまで行ったんでしょ?」


 ベッドの上で俺がストックしていたお菓子を食べながら、ウェリカが言った。


「まあな……。ていうかなんでお前が俺の部屋にいるんだよ」


 ストレリチアみたいな事言ってるなと自分でも思ったが、実際理由も聞かされず自分の部屋に来てくつろがれるとたまらずそう言いたくなった。不快とかそういうのよりも先になんでだよという思いが脳内を駆け巡る。


「いいでしょ別に。あんたはあたしの兄。なら妹の為に尽くすのが道義ってもんでしょ」

「なんだよその理屈は……別にいたいならいていいけどさ」

「ならいさせてもらうわ。ところでまたドラゴン乗って行くの? 乗れるよう馴致されたドラゴンがいるならあたし動かせるわよ」

「お前もドラゴン乗れんの!?」


 カトレアが乗れるのならウェリカも乗れるのではないかとも少し思っていたが、しれっとそう言われてしまうと驚かずにはいられず、瓶の栓がスポンと抜けたような勢いで驚愕の声が口から噴き出てしまった。

 

「い、一応ね? あんたは操縦出来ないの?」

「出来ないというか……あの……まあ……うん」

「はっきり言いなさいよ」


 言わないとダメか。まあ、このまま黙ったところでどうにか出来る訳でもないしな。


 俺は深く息を吸ってから、意を決し、口を開ける。


 思い出したくねぇな。


「幼少期……ドラゴンから落ちて……それがトラウマで……まあ、うん」

「怖いの? ドラゴンが」

「お前を助ける為に我慢したけど、正直もう乗りたくは無い……」

「ぷふゃ」


 真面目に俺の言葉を聞いていたウェリカだったが、変な声を口から漏らした後、封じ込めていた何かが決壊したかのように爆笑し始めた。


「笑い事じゃないぞ……回復魔法使えなかったら死ぬところだったんだぞ……」

「ひゃごめんなさひゃはひゃ! あんたにそんな弱点があるなんて思わなひゃひゃ!」


 笑い過ぎて何を言っているのかいまいちわからないが、とりあえずなんか馬鹿にされているなというのはわかった。


「お前は……落ちた事無いのかよ……」

「あたしは落ちても姉上が…………」


 ウェリカの笑いが、突如として止まった。


「……どうしよう。あたしも怖くなってきたんだけど!」


 そしてベッドから降り、俺に縋りついてきた。口元にお菓子の欠片がくっついていたのでとりあえず指で摘んで取り除いた。


「お姉ちゃんいないと落ちたとき誰も助けてくれないじゃない! どうすればいいのよ!」

「俺に聞かないでくれ」


 頼られても困る。


「……どうやって行くかは後々考えよう。都合よく乗れるドラゴンがいるかもわからないしな」


 とりあえず、そう返事をしておいた。

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