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第71話

「結局、レイノって……」


 ベッドに腰かけたウェリカが、頭の片方を手で抑えながら言い淀む。その先の言葉は、色々と想像出来た。


「…………あの殺気は……魔物のそれだった……しかも……かなり強い……」


 オルシナスはいつもより一層小さな声で、ゆっくりとそう呟いた。


「じゃあ魔物だって言うの?」

「……わからない」


 ウェリカの問いかけに、オルシナスは首をぶんぶんと横に振る。


「あたしには普通の人間に見えるけどね。やたら力持ちだなみたいに思う事はあったけど」


 ウェリカがぼんやりと天井を眺めながら言う。


「人間だろうが魔物だろうが殺人犯だろうがレイノは俺の生徒だ。それだけは変わらない」


 どこか物憂げな顔をしたウェリカを見ながら、俺は思った事をあえて口に出す。


「……だけど、レイノはそう思ってないのかもしれない」


 だからどんなに俺が気にしなくてもいい、変わらずにいてくれと言ったところでレイノ自身がそう思わなければ、状況は変わってしまう。それが、不安だった。


「魔物化現象の謎を解き明かせばどうにか出来るのかもしれないわね……。解き明かせられるのならとっくにしてるって話なのだけど」


 ウェリカが言ったが、どうすればいいんだとなると結局そうなってしまう。


 魔物化現象には謎が多い。つまりそれは、未だ誰も解明出来ていないという事で。なのに今更、俺たちで調べようとしたところで一体何がわかるんだという諦観が嫌でも脳裏をよぎる。


「……ブーゲンビリアに行けば……何かわかるかもしれない……」


 俺の考えを読み取ったかのように、オルシナスが床に座っていた俺に四つん這いで近寄りながら言った。


 また、行くのか。行かなければ、いけないのか。


「……あたしはもう行きたくないんだけど……でもレイノとシンシュと…………あんたのためなら……」


 オルシナスの言葉を聞き、ウェリカが少し震えた声で、俺を見ながら言う。俺だって少しトラウマになってしまっているんだ。無理もない。


「行って調べるなら俺一人でもどうにかなるから、無理するな」

「あ、あたしも行くわよ! 無理なんてしてないし!」

「いや、まだ行くと決めた訳じゃ……」

「行くわよ!」


 ウェリカはなぜかベッドから降りてきて、行くのだと食い気味に決めてきた。俺も自分自身で真実を知らないといけないと思ってたから遅かれ早かれ行くつもりでいたけど、なんでお前が行く気満々なんだよという思いは否めなかった。


「あたしも……行かないといけないと思うのよ……その……貴族として……」


 あんな事があってもなお、この子は貴族としての誇りを持てているのか。平民を大切に思い、支えるという精神を、持ち続けられているというのか。


 だったらもう、何も言う事は無い。


「わかったよ。行く日を決めたら、お前にも言う」


 俺はウェリカに、そう返した。


「よろしく頼むわよ」


 ウェリカは満足そうな声を上げながら、薄く微笑んだ。


「ところで、あんたはどうなのよ?」


 ウェリカが急に話を変えて、椅子に座り黙って話を聞いていた部屋の主――ストレリチアを見て尋ねた。


「どうって何がだい」

「あんたはどうして……アナザークラスにいるのよ。あたしたちと、同じクラスになってるのよ。あんたも何か、力を持ってるんじゃないの?」

「……知りたいかい?」


 ストレリチアは不敵な笑みを浮かべて、そう言った。


 刹那、天を切り裂いたかのような大きな雷鳴が、四人では手狭な部屋に轟いた。

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