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第67話

「戦ったことのある『きょうだい』もいた……らしい……」

「きょうだい? あんた――いや、なんでもないわ。それで?」


 オルシナスの言った「きょうだい」という言葉に反応したウェリカが何かを言おうとしたが、咳払いをして止めた。オルシナスの「きょうだい」は、俺たちの妹だったり姉とは異なる存在だという事をウェリカも察したのだろう。


 実験体にされていたのは彼女だけ、っていう方がむしろおかしい。そういう事か。まったく、相変わらず悪趣味もいいところだな。


「火属性の魔法に似ているけど……根本からして違う………力を持っていたと……言っていた……それ以外は……何もわからない……」


 オルシナスはゆっくりと魚を食べながらルナの話を続けていたが、最終的にはわからないと結論付けた。あの本が出版されたのは十五年以上前で、彼女が生まれる前に活動していたのだから、よくよく考えたらむしろ名前を知っているだけでも十分だろう。


 だったら、これならどうだろうか。


「魔法生物学研究所って、どんなところなんだ?」

「……それなら言える」


 俺の問いに、オルシナスは鼻をふんすと鳴らしながら自慢げに言った。可愛い。ここについて何かを知っているのなら、魔物化現象についての手掛かりも見つかる、かもしれないな。


「魔物についての研究をしてる……他の動物との違いだったり……あとは……人工的に魔物を生み出す実験なんかもしてる……」

「え……!?」


 言葉も出なかった俺に変わって、ウェリカが驚きの声を上げた。人工的に魔物を生み出す。オルシナスは今、確かにそう言った。


「もしかしたら、レイノも!」

「……レイノが……どうかしたの……?」


 俺の袖を引っ張りながら、ウェリカが焦る。それを見て不思議そうに首を横に傾げるオルシナス。


 もしかして、魔物化現象はブーゲンビリア魔法生物学研究所が――いや、まだそう結論付けるのは早計過ぎる気もするが、可能性としては十分にあり得る。だけどだとしたら一体なぜ外国の研究所がわざわざ――「ちょっと大変!」


 突如聞こえたクインテッサの悲鳴に近い大声に、思考を中断させられた。


「どうした?」


 俺はそう言いながら、声のした方向――食堂の出入り口に目を向けた。するとそこには長く綺麗な金髪が乱れ、息が上がっているクインテッサが短めのスカートのせいで露わになっている膝に手をつきながら呼吸を整えている姿があった。


「レイノちゃんと! えっと、誰だっけ! その、ウェリカちゃん家のメイドさんの名前!」

「シンシュ?」

「そうそうそう!」


 いきなり出てきたクインテッサに指をさされたウェリカが間髪入れずに答えると、クインテッサは何度も小刻みに首を縦に振り続けた。


「二人がどうかしたのか……?」


 何となく、嫌な気配を感じ取りながらも、俺はクインテッサに尋ねた。


「大変なの! その二人が! 外で殴り合っちゃってて!」

「……は?」

「は? じゃないよ! 本当に大変なの! 私じゃ止められないから、早く!」


 あれからどうなって殴り合いを始めるという結果に至ったのかは不明だが、クインテッサが止められないのなら俺が止められるとも「ウェリカちゃん!」間近に駆け寄ってきたクインテッサがウェリカの手を取って、ウェリカに止めてと頼んだ。


「え……あの……でも……」

「とにかく行こう」


 俺じゃないのかと何だか複雑な気持ちになるが、とりあえず立ってその気持ちは誤魔化しておく。


「……オルシナスも、ついてきてくれ」


 トレーの皿が空になっていたのを確認して、俺はオルシナスにも声を掛けた。


 オルシナスも、こくりと一回頷いた後、立ち上がった。


「……行こ」


 オルシナスはなぜか優しい感じの声音でそう言ってから、俺の手を柔らかくて温かい小さな手で引っ張りながら開いていた窓へと向かっていった。


 もしかして……いや、今はよそう。俺が落ち込んでいるのを見抜かれたのではないかとか、今はどうでもいい。


「……ああ」


 後ろから妙に視線を感じるのが気になったが、俺はオルシナスと共に窓枠に足を掛け、ぬかるんだ芝生にびしゃりと両足を踏み込んだのだった。

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