第66話
昼食にしては遅すぎて、夕食にしては早すぎる。今はそんな時間帯であるものの、オルシナスは他にいない食堂でただ一人、もぐもぐと食事を摂っていた。
「…………おかえり」
止血を済ませた俺と、なぜか膨れっ面になっているウェリカがすぐ側までやって来ると、彼女はこちらを見て、小声で言った。普段の食堂だったらかき消されてしまいそうなほど、小さな声だった。
「ただいま」
でも確かに聞こえたので、俺はそう返した。彼女の前に置かれているトレーを見ると、魚の煮付けを食べていた。これまたライラが好きそうなものを――ってなんで俺は今あいつを思い出したんだ。いや、そんな事はいい。
「少し、話せるか?」
俺が尋ねると、オルシナスはこくりと首を縦に振ったので、俺は彼女と向かい合う所にある椅子に腰かけた。それを見て、ウェリカも俺の隣の椅子に座る。
「えっと……」
「……わたしが生まれたのは……マソティアナ世界研究所……」
俺の考えを見透かしたようにオルシナスはコップから水を一口飲んでから、そう言った。
「なによその世界研究所とやらは。あたし知らないんだけど」
ウェリカが頬杖をつきながら率直な感想を述べたが、俺も知らなかったので、俺はそのままオルシナスの返事を待つ事にした。
「ブーゲンビリアの王都……マソティアナにあって……この世界のあらゆる事象についての研究をしてる……」
「あんたはそこで実験されてたの?」
ウェリカの問いに、オルシナスは魚を小さな口でちびちびと食べながら頷いた。
「この世界に存在するあらゆる魔物を殲滅するための……兵器として」
「兵器……」
ウェリカがそう呟いて、俯き黙り込む。苦しそうな横顔を見ると、俺も何も言えなかった。
「わたしの力は……魔物を絶滅させる……そういう目的で……植えつけられた……でも……人も殺した……たくさん…………」
「嫌じゃ……なかったの」
「兵器には感情も……意思もいらない……そうやって育てられた……だから……何も思わなかった……何も……思えなかった」
「そんな事って……」
「だからこの国に来てから……わたしは人間になれた……と思ってる……」
ウェリカとやり取りをしてオルシナスは俺に微笑みながら、そう言った。
「わたしの力を……魔物を倒すためだけじゃなくて……誰かのために使いたい……。わたしはこの学校に来て……アルと出会って……そう思えるようになった……だから……アル――」
「あー! えーっと! ルナ・リバーツって子、あんた知ってる!?」
せっかくオルシナスが何かいい事言おうとしてたのに、ウェリカがなぜか焦ったように途中でそれを遮りやがった。確かに俺もそれを聞きたくて会いに来たんだけど、もう少し聞き方っていうのがあるだろうが。
「名前を聞いた事は……ある……」
内心腹立たしく思っていた俺に対して、当のオルシナスは意に介していない様子で答えた。
「世界研究所と……魔法生物学研究所は……対立関係にあったから……」
そして彼女は、そう続けた。




