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第65話

 私は再び、太陽が一切見えず、激しく雨の降る外へと戻った。


 雨で眼鏡のレンズが濡れて不明瞭になる視界の中で、シンシュさんが私に銀色の刃を妖しく輝かせている剣を向けているのがわかった。


 一体、どうしてこんな事になってしまったのだろう。


 考えるまでもない、か。


 私が魔物になって、たくさんの人間を殺したからだ。


「……いかせて、いただきます」


 自分が犯した罪の、報いを受けるときが来た、という事か。


 シンシュさんが、切っ先をこちらに向け、走り出した。


 *


「今なら言えそうだから言うけど、こんな重い話ボクの部屋でしてどうするんだ。気の利いた事は何も言えないよ」


 話を終え、レイノとシンシュさんがいなくなった部屋でストレリチアが嘆息しながら俺に言った。


 そう。さっきからずっと、俺たちはストレリチアの部屋で、ストレリチアがいる状況で、話をしていたのである。


「だってお前の部屋……広くて集まりやすいし……」


 正直に俺は言った。


「はぁ……先生は…………」


 ストレリチアは息を大きく吸いながら、俺に指をさす。彼女はベッドの上に座っていて俺は床に座っているため、目の前にちょうど太ももが――ってどこを見てるんだ俺は!


「たまり場にしたいのか! ボクの部屋を!」


 一呼吸おいて、ストレリチアは俺に叫ぶ。


「したいというか、ちょうどいいって言うか」

「はぁ……研究の邪魔さえしないのなら好きにしてもいいんだけどね……」

「研究というと、お前はどう思う?」


 そのワードに引っ掛かった俺は、ストレリチアにそう聞いた。


「人を魔物にする研究なんて、ボクの趣味じゃない」


 ストレリチアはベッドの上で興味なさげに足をブラブラさせながら呟いた。脚が上がるとスカートがめくれて――そんなところは見なくていい俺。


「もっと愛と平和のためになる研究がしたいね、ボクは」

「遠くに住んでる先輩の様子を盗み見る事とかか?」

「それはそれ、これはこれだ!」

「え、先輩って何の話!?」


 俺の隣で黙ってやり取りを聞いていたウェリカが突如割り込んできた。ちなみに今のウェリカは眼鏡を掛けておらず、髪は横で二つに縛られている。要するにいつものウェリカ・クラウディアだ。


「ウェリカには関係の無い事だよ」


 ストレリチアが冷やかにウェリカに言った。


「あるわよ! あんたストーカーやってんの!?」

「ボクのママか」

「誰がママよ!?」

「じゃあ関係ないね」


 ストレリチアにあっさりとあしたわれたウェリカは「ぐぬぬ」と歯ぎしりして俺の袖を引っ張った。


「あんたは知ってるのよね!? 先輩って何なのよ!」


 こうして俺を頼る手段に出たようだった。


「以前通っていた学校の先輩で――」

「言うなぁ!」


 俺が口を動かし始めると、ストレリチアは大声を出して俺に飛び込んできた。ベッドから勢いよく降りたものだから彼女の豊かな胸が俺の顔面に押し付けられる。素晴らしい感触だ。いや素晴らしくはない! なんて自問自答している間にも、硬い素材の制服越しからでもはっきりと感じる柔らかな感触がぐいぐいと顔に当てられ続ける。


「あ、あ、あ、あんた何やってんのよ!?」


 横からウェリカの叫びが聞こえてきた。


「……あ」


 上から短い呟きが聞こえた後、柔らかな感触から一気に解放され、俺は呼吸を整える。そうして目の前を見ると、そこには真っ赤に頬を染めたストレリチアがいて。


「ばかー!」


 ビンタされた。


「なんで!?」


 言いたい事は、ウェリカが代弁してくれた。


「ちょっと鼻血出てるじゃない!?」


 ウェリカに言われて人中を撫でると、指には鮮血がついていた。


「……癒やせ」


 俺はただそれだけ言って、自分に回復魔法を掛けて止血した。


「…………えっち」


 ストレリチアは俺だけに聞こえるように、耳元でそう囁いてきた。


 そういうのが――とは全然思わないようにしながら、俺はあわあわしているウェリカに連れられて、部屋を後にしたのだった。

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