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第64話

「魔物化現象を……起こした……犯人……」


 ストレリチアちゃんの部屋から自分の部屋へと戻る最中、私は先生に言われた言葉を反芻していた。ちなみにストレリチアちゃんは突如ずぶ濡れ状態でぞろぞろと入ってきた私たちに最初こそ驚いていたもののすぐに事情を察したのか、タオルを四枚机に置くと、激しく雨が降りしきっている空を黙って眺め始めた。今度ちゃんとお礼と謝罪をしないとな、と心の中で思う。


 先生は私の事を優しいと言っていたけど、私からすればストレリチアちゃんの方がよっぽど優しい。ストレリチアちゃんは一見自分の事しか興味が無さそうに見えるけど、その実誰よりも思慮深くて、他人の事を考えているなと思う事がある。


 本題に戻ろう。


 魔物化現象は人為的に引き起こされたものなのかもしれない。そんな考え私には微塵も無かった。もし、それが本当で、どこかの誰かが引き起こしたものなら――私も、放ってはおけない。


 だけど一体どうやって調べればいいんだろう。以前私が見た資料には、単なる事実しか書かれておらず、どのようにして魔物化現象が起こるのか、みたいな事は書かれていなかったし、先生も情報の少なさに悩んでいるようだったから見当がつかない。


 わかっているのは、ブーゲンビリアで行われている研究との関連があるかもしれないという事だった。もっとも、一体何の研究なのか、というところまではわかっていないらしい。


 単純に考えるのならば、人を魔物に変える研究になるのだろう。だけど、そうではないのかもしれないという考えも捨てきれない。


「レイノさん……止まってください……」


 突然背後から声を掛けられたので、思考を停止して、振り向く。声の持ち主は、シンシュさんだった。俯いていて前髪が垂れているため、顔が隠れていて、表情は窺い知れなかった。


「先生は……あなたを許すと言った……でも……わたくしは……」

「許さなくても、いいです」


 振り絞るように放たれたシンシュさんの言葉に、私はそう返した。


 きっとどこかで、シンシュさんの大切な人も、私は手に掛けたのだろう。


 許されるとも、許して欲しいとも、端から思ってない。


「あなたが……わたくしの両親を殺した訳ではない……そう……決まった訳ではない……頭ではそう思っていても……心が……感情が……それを否定するんです」


 シンシュさんも立ち止まり、ゆっくりと言葉を紡いでいく。近すぎず、遠すぎもせず、といった距離のままで。


「わたくしと……戦ってください……レイノさん……。この感情の矛先を……他にどう向ければ良いのか……わたくしには……わかりませんので」


 その言葉に私は何も言えず、シンシュさんを見る。


「一つ聞きます。わたくしと同じ色の髪をした方の……記憶はありますか」

「……はい」


 首肯した。


 シンシュさんの髪の色は、私が最初に引き裂いた人の髪の色、そのものだったから。


「外に……出て下さい」


 顔を上げたシンシュさんの表情は、憎悪に満ちていた。

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