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第61話

「なんか雨降ってきたわね」


 緑豊かなノコエンシス領内に入ると、車窓に水滴がぴしゃぴしゃと掛かり始めた。それを見て、ウェリカが呟く。


「あんまり強くならなきゃいいんだけどな」


 雨足はさほど強くないが、このまま降り続けて勢いも増してくると道がぬかるんだり馬が嫌がったりして馬車が動かせなくなる可能性も十分あり得る。そうなるとびしょ濡れになりながら学校までの残りの道を歩く事になるので、どうかこのままでありますようにと心の中で祈っておく。


「天気を変えられる魔法とかってあったりするの?」


 ウェリカが窓の水滴を指でなぞりながら、尋ねてきた。


「魔法を使って物理的に雲を払ったり創ったりして都合よく勝手に天気を変えてる冒険者もいるって聞いたりしたけど、実際にそうしてるところを見た事は無いな」

「天気って勝手に変えてもいいものなの?」

「良くないだろうな」


 影響が計り知れないし、俺たちは滝のような雨に打たれようが灼熱の地で意識が飛び掛けようがそんな事はしなかった。出来なかったというのが正しいのかもしれないが。


「まあでも、冒険者なんてそれくらい自分勝手じゃなきゃやってられない側面もあるからな。自分を大事にしなかったらすぐ死ぬし」

「死ぬって……やっぱり魔物に食べられたりしちゃうの?」

「それが一番多いだろうけど、無理して不慣れな武器を使って自分の身体を斬っちゃったり、油断して足を踏み外したり、なんて事もある。あ、もちろん、魔法で自滅したって話も聞いた事あるぞ」

「魔法で自滅!?」

「魔物を爆発させようとしたけど調整ミスって自分諸共、みたいな感じだよ」

「な、なによそれ……めっちゃ怖いんだけど……」


 俺の言葉にウェリカは眉をひそめた。そうして椅子の上に足を乗っけて、丸まった姿勢になる。


「でも、最強になるにはそういうのを怖がっちゃいけないんだと俺は思う」


 俺だってウェリカほどでは無いけど、平均よりかは優れた魔法の才能を持っている。成長するにつれて、増していく魔法の威力なんかに、自分自身で怖くなる事があった。だけど、それを怖がり続けていたら今の自分は間違いなくいなかっただろうと感じている。


 本気を出せば家も、町も、人も、何もかもを壊せそうなウェリカにそれを求めるのは酷かもしれないけど、どうか自分の力を怖がらずに受け入れて欲しいと、そう願っている。


「やっぱり……怖がってばかりじゃ、ダメなのよね……」


 自分の力を、とウェリカが流れゆく景色を見ながら憂いを帯びた顔で呟いた。こうした表情の横顔を見ると、やっぱり美少女なんだよなあと無意識のうちに考えてしまう。


「すぐには無理でも、少しずつ受け入れられるようになっていけばいいんだ。卒業まで、まだ時間はあるんだからさ」

「そうよね……ってうぇえ!?」


 深窓の令嬢っぽかったウェリカが突然俗っぽい声を上げてただの平民みたいになった。


「あ、あれ、レイノと――シンシュ!?」


 ウェリカが窓に顔を近づけてそう叫んだので、俺も同じように顔を窓に向ける。すると馬車はすでに魔法学校の校舎付近まで辿り着いていて、校門前には確かに、レイノさんとシンシュさんがいた。


「なんで相合傘してるのよ!? あの二人!?」


 先にウェリカが突っ込んだが、二人は滴る雨の中、なぜか相合傘をして立っていた。


 一体彼女たちは、何をしているのだろうか。

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