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第60話

 鈍色の空から、冷たい雨がしとしとと降り注いでいる。


 私は雨の日が好きだ。雨音を聴くと安らかな気持ちになれるし、読書も捗るから。それに今は、溢れ出る涙を誤魔化してくれるから。ストレリチアちゃんは大気のマナが乱れるからとか空が隠れるからとか何とかで嫌いだって言ってたけど、魔法だけじゃなくて青い空も好きなのだろうか。そこまでは深く聞いていないからよくわからない。


「はぁ……」


 鼻が詰まって上手く呼吸が出来ないので口で息をすると、しょっぱい雨水が口内に入ってきた。それから滲む視界と重くなった足で、歩を進めていく。


「申し訳ありません」


 しばらく歩いていると、後ろからふと女性の綺麗な声が雨音の中、耳に伝わってきた。振り向くと、レースのついた高級そうな傘を差した水色の髪をしたメイドさんが路の上に立っていた。この辺りに貴族の屋敷なんかは無いし、どこから来たメイドさんなのだろうか。


「わたくしは、クラウディア家に仕えておりますメイドのシンシュと申します」


 私の考えを読み取ったかのように、メイドさんは私に恭しく頭を下げながら名乗った。クラウディア家?


「……ウェリカちゃんに、何かお話でもあるんですか」

「ウェリカ様をご存じなのですか?」


 私がそう言うと、シンシュさんは驚きながら、こちらに少し近寄ってきた。


「この学校にいる人なら全員知っていますよ、九百倍のお嬢様って」

「そうなのですか」

「私、あの子とはクラスメイトなんです」


 ぐちゃぐちゃになっている心理状態のせいか、言葉遣いまでもが普段とは違ってしまっていると、やり取りをしていく中で感じていた。


「あなたが……でしたらお聞きしたいのですが、ウェリカ様は今どちらにいらっしゃいますでしょうか?」

「ここにはいませんよ。アルドリノール先生と一緒に出掛けています。魔力制御の特訓とやらで。でも、今日中には帰ってくると思いますよ」

「そう、ですか……」

「伝言なら、私が聞きますけど」

「いえ、わたくしが直接、ウェリカ様とお会いしなければならないのです」


 ぶっきらぼうな言い方になってしまった私の言葉にも、シンシュさんは丁寧に応答し、首を静かに横に振った。


「……私も、先生に直接言わないといけない事があるんです。だから、一緒に待ちませんか?」

「では、そうさせて頂きます」


 シンシュさんは私にそう言うと、差していた傘の生地の部分の一部を私の頭上に掲げた。


「こうしていれば、お互い濡れませんので」


 シンシュさんは、私に薄く微笑みながら言った。


「……ありがとう、ございます」


 たどたどしく、お礼を言う。私なんかがこんな風に優しくされるなんて事、あってはならないのに。


 私が先生に言おうとしている事をここで言ったら、シンシュさんはどんな反応をするんだろうか。


 傘にパツパツと当たる雨の音を聴きながら、私はそんな事を考えていた。

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