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第51話

「一体どこに?」


 俺の腕を引きながら廊下を歩き続けるノーネの華奢な背中に、俺は声を掛ける。しかし、ノーネは何も言わないまま歩みを止めようとしない。


「ここに……」


 やがてノーネは、階段を上がってすぐそばにある部屋の前で止まった。そしてドアを静かに開け、俺ごと部屋の中へと入った。部屋の中は昼間にも関わらず真っ暗だった。少しして目が慣れてきた頃、窓が暗幕で覆われているからだと気付いた。


「ここは……」


 暗闇の中、僅かに見えるノーネの顔を見ながら、なんとか口を開く。


 一体、ノーネは何のつもりで俺をここに……。


「あ……あの……わ……わたしは」


 しどろもどろになりながらも、ノーネも小さく口を開けた。ここがどこなのかは答えてくれなかったが、家具の類のものも無さそうなので恐らく使われていない部屋なのだろう。


「わたしは?」

「えっと……その…………アルの……助けになりたくて……ずっと……調べてたんです」

「何を?」

「その……えっと……まも『魔物化現象』についてです」


 まさか、ここでこの単語を耳に入れる事になるとは思ってもいなかった。


「アルの家と……家族がいなくなっちゃったとき……わたしは何もできませんでした……だから……お父さんにも頼んで……どうして魔物化現象が起こったのか……調べたんです……」


 言葉足らずで脈絡がわかりにくいが、あのとき何も出来なかった事を何年もずっと気に病んでくれていたのだろう。


「それで……わかったことがあって……」


 たどたどしい話し方ではあるが頑張って話そうとしていたので、黙って小鳥のさえずりのような声を聞く。


「魔物化現象は……魔法の才能を持った人が多く住む地域で多く起こっているんです……レイクレイン領も……ですよね……」

「……ああ」


 レイクレイン領はかねてより魔法の才能に優れた人が多く暮らしていた。領主であった俺の家も例外ではなく、先祖代々国内有数の実力を持つ魔法使いとしても名を馳せていた。


 だけど、そういう話は既に俺も小耳に挟んでいた。だからどうこうという訳では無く、ただそういうものなんだなと思うようにしていた。


「これは……知られている話……だと思いますが……ここから先は……まだ……わからなくて……」

「わからない?」


 一体どういうことなのだろうか。


「その……魔物化現象には……ブーゲンビリアでやられてる研究と……繋がってる可能性があって……」

「またか……」

「またって……?」

「ああいや、なんでもない。続けてくれ」


 またブーゲンビリア絡みなのかよと思って自然と口が動いてしまい、ノーネを少し困らせてしまった。


「えっと……もしかしたら……魔物化現象は……自然発生じゃなくって……人為的に発生させられたかもって……思って……」

「人為的に、か……だとしたら理由はなんなんだ?」

「ご……ごめん……そこまでは……」

「別に責めるつもりはないよ。むしろ、調べてくれてありがとう」


 表情を暗くしてしまったノーネに慌ててそう言う。自分は調べようとも思っていなかったから、代わりにそこまでやってくれた事に感謝したい。


「あ……あう……」


 俺が礼を言うと、ノーネは照れ臭そうな声を小さく漏らして俺から目を逸らした。


 ……そういえば。


「ノーネの頼みって、何だったんだ?」

「はぇ!? そ、それは……」


 ふと尋ねると、ノーネはなぜか急に声を大きくして動揺し始めた。


「えっと…………わた……わたし……」

「わたし?」

「わたしと……わたしに……また会いに来て……欲しい……です」

「もちろんだ。また会いに来るよ」


 逆にもう来ない、なんて言うはずが無い。会う前は人と会うのを怖がってるんじゃないかって思ってたけど、そんな感じでも無さそうだしな。


「あ………はい……」


 だけど、俺の返事を聞いたノーネの声は、そんなに嬉しそうじゃなかった。どうしてだろうか。気にはなるけど、さっきからもっと気になっている事がある。


「なんでこんな暗い部屋に?」

「え……あ……それは……」

「それは?」

「暗い方が……話しやすくなるかなって……」

「そうか……? まあ、そういう事もあるか」


 俺は別に明るくても暗くても別に変わらず話せるんじゃないかって思ったけど、ノーネからしてみれば違う事もあるんだろうと思い直し、心の中で頷いた。


「ウェンディもお菓子食べ終わった頃だろうし戻ろ――!?」


 うかと気を取り直して言おうとしたところで、背中に突然重いものがのしかかってきた。


 背中に、柔らかいものが当たっている感覚が迸る。


「えっと……ノーネ?」


 考えずとも、背中に抱き着かれているのだとわかる。腰に当たる腕は、精巧なガラス細工かのように少し力を込めて握ればすぐに折れてしまうんじゃないかというほどに細かった。


「……おんぶ」

「え?」

「……おんぶ、してください」

「……なんで?」

「……」


 理由を尋ねても、答えは返ってこなかった。


「まあ、いいけど……」


 なぜなのかは全くわからないが、俺はノーネをおぶったまま、ウェリカの待つ部屋へと戻る事になった。


 ……自分でも、調べて見るか。魔物化現象について。


 薄着であるため直に伝わって来るノーネの肌の温もりを感じつつ、俺はそんな事を思ったのだった。

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