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第48話

 実際問題どうしようと冷や汗をかき始めたロレッタをよそに学校を後にした俺とウェリカは、学校や施設のある市街地から少し離れた場所に位置している、綺麗に整備された草原の上へと足を踏み入れた。


「ねえ……ここって……」


 ウェリカが俺の隣を歩きながら恐る恐る聞いてくる。眼鏡を上げてから指差した

 その先には、三階建ての赤い三角屋根と明るく白い壁の大きな屋敷。そう、ここは。


「この領を治めている、ホプキンス公爵家の邸宅だ」

「え……ええ!?」


 ぼんやりとした表情をしていたウェリカだったが、俺の言葉を聞いてわかりやすく両手を挙げて驚いた。


「ホプキンス公爵家って三大貴族に数えられてて内務大臣なんかも歴任してる、あのホプキンス公爵家!?」

「そうだ。あのホプキンス公爵家だ」


 ついでにわかりやすく解説もしてくれた。


「え、もしかして今からあそこに行くの!?」

「あそこにお前に会わせたい奴がいるからな」

「あたしに!? お姉ちゃんじゃなくって!?」

「今のお前はただの平民の設定だろうが」

「そ、そうだったわね……。でもなんであたしに……?」

「回復魔法、使えるようになりたいんだろ?」


 俺が言うと、ウェリカは息を呑んでから、こくりと一回頷いた。


「俺の元同級生に公爵令嬢がいてな、そいつは適性が無いにも関わらず回復魔法が使えるようになったんだ。元々適性があった俺よりも何かコツとか知ってるんじゃないかって思ってる」


 もっとも、実際あいつが会ってくれるかどうかはわからないけど。

 

「公爵令嬢って……また女なの!?」


 話を聞いたウェリカはまずそこを指摘してきた。なんでだよ。


「貴族の子息は魔法学校よりも騎士学校とか士官学校とかに行くのが多いからな。自然とそうなっちゃうんだよ」

「ならあんたはどうして魔法学校に行ったのよ」

「魔法の適性が高かかったからな」

「……それだけ?」

「それだけって何だよ。そっちに行きたいって言ったら親も賛成してくれたぞ」

「じゃなくて! もっとこう……もういい!」

「もういいってなんだ」

「いいって!」


 なんか怒ってる? だとしたらどうして怒らせてしまったのだろうか。ウェリカは変な歩き方でどんどん俺から離れていってしまう。ともかくまずは呼び止めよう。とはいえどう声を掛けようか。


「ウェリカ」

「来ないでよ変態!」

「変態って……いくら女子の方が多いからって好き勝手やれる訳じゃないぞ」

「そうなの!?」

「そうだよ!」


 またもや驚愕しているが、好き勝手やれるんなら首席なんて取れてない。


「なら……理事長とはどうなのよ。好き勝手やってたの?」

「なんでここでクインテッサが出てくんだよ!?」

「いいから答えなさいよ!」

「好き勝手って言っても色々あるだろ。例えばさ」


 俺は指を突きつけてきたウェリカの身体を力を込めて持ち上げた。いたって年相応な女の子の身体ではあるものの、やはりずっしりとした重量感があった。女の子の身体が軽いと言うのはただの幻想に過ぎないのだと改めて実感する。


「ひゃあ!? い、いきなり何すんのよ!?」


 お姫様抱っこの状態になったウェリカが、じたばたもがきながら真っ赤な顔で俺を見上げながら口走る。


「遠征のとき、疲れて歩けなくなったクインテッサをこうしてよく運んでいた」

「どうしてこんな運び方なのよ!?」

「こういう風に運べば喜んだからな」

「あう……もうわかったから降ろしなさいよ!」

「やだ」


 ウェリカの懇願を、俺は一蹴した。


「どうしてよ!?」

「ここで降ろしたら逃げそうだから」

「に、逃げない! 逃げないから!」


 俺は黙って間近に映るウェリカの顔を見つめる。白磁のような肌が照れて真っ赤に染まっているのを見て、やっぱり自称するだけの事はある美少女だし、可愛いなと思わずにはいられなくなる。


「ねえ! パンツ見えちゃうから!」


 確かにスカートの後ろ側を抑えず直に太ももに腕を当てている状態だから、横からだと自然と見えてしまいそうだ。でも。


「周りには誰もいないぞ」

「でも気になっちゃうの! お願いだから!」


 お願いされてしまったので素直に聞き入れてゆっくりと腰を下ろして降ろしてやる。


「理事長は……これをよく……」


 ウェリカが俯きながら小さな声で呟いた。


 そういやあいつにもよくせがまれてたっけと、次第に近くなっていっている屋敷を見ながら思い出した。


 あれからちょっとは変わってくれてると、いいんだけど。

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