第44話
「対象の部位を水で包むイメージをして、傷が癒えるよう祈るんだ」
「こ、こうかしら?」
休日、俺は揺れる馬車のキャビンの中でウェリカに回復魔法を教えていた。相変わらずレイノは話をしてくれないままなので心配になるが、だからといってウェリカの特訓を蔑ろにも出来ないため、こうして二人でいるところだ。
「水で包む――」
「あっつあ!?」
ウェリカが手をかざしていた部分から水、というか熱湯が出てきて俺の腕に降りかかり、反射的に身体が動いてキャビンの壁に頭をぶつけて視界に星が散った。
「ご、ごめん!」
「ちょうどいい……この火傷を治せ……」
「治す!」
「つめたぁ!?」
今度は氷水かよ、と言いたくなるレベルの冷水がどばどばと出てきた。火傷を治すという意味では間違ってないかもしれないが、残念ながら回復魔法はそういうのではない。
「回復魔法で水を出す必要は無い……」
結局俺は自分で自分に回復魔法を掛けた。もちろん水は出ていない。水で包むのはあくまでも脳内のイメージだ。
「ごめんなさい……回復魔法って難しいのね……」
「回復魔法は向き不向きがはっきり出る魔法だからな、落ち込む事は無い」
「うん……」
ウェリカはそう頷いたが、明らかに落ち込んでいた。
「とりあえず濡れたとこ拭くぞ」
「あんたにまで拭かせちゃって……悪かったわね……」
「気にするな」
二人でタオルを持ち、キャビンの中を拭いていく。
「そもそも風魔法には回復魔法は存在しないから無理もない」
「だけど……」
「回復魔法は回復魔法が使える奴に任せておけ」
「また撃たれたらどうするのよ!」
「えっと……」
声を荒げたウェリカに俺はたじろぐ。たまたま第二王子が助けてくれたお陰で今もこうして生きていられているけど、回復魔法があろうが身体に入った異物は摘出出来ないし、やっぱり普通に死んでてもおかしくないよな。
もしまたああいう事があったとき、果たして俺は生きていられるのか――それは俺にもわからない。
「あたしも……使えるようになりたいのよ」
ウェリカは俺の目を真っすぐ見て言った。しかし俺には適性があって簡単に使えてしまえているから、属性にも魔法の種類にも適性が無い人がどうすれば使えるようになれるのかがいまいちわからない。
……本来の予定には無かったけど、あいつにも会いに行ってみるか。
「わかった。ホプキンス領に着いたら色々考えてみよう」
「遠出っぽいなって思ってたけどホプキンス領に行くのね!?」
翡翠色の瞳が窓から差し込む光に照らされてきらきらと輝いている。そんなに行ってみたかったのだろうか。学術都市だし観光名所っぽいのは無い気がするけど。
「となるとホプキンス魔法学校に殴り込みに行くつもりなのね!」
「どうしてそうなる!?」
実際そこに行くつもりだけどさ!
「確かに殴り込みは良くないわよね。あたしたちは魔法使いなのだから魔法で勝負を――」
「魔法でもしねえよ! 平和的に訪問すんだよ!」
「平和的に……そうよね。貴族として礼節はわきまえないといけないわよね」
貴族じゃなくても礼節はわきまえて欲しいけどな。
「で、一体何しに訪問するのよ?」
「俺の知り合いがそこで教師をやっててさ、お前の魔力制御の方法なんかを相談したいんだよ。風魔法が得意だから俺よりも何か知ってるかもしれないし」
「ふーん。そうなのね、どんな人なの?」
「そうだな……」
どんな人かって言われると――。




