第43話
「えっと……心配かけて……悪かったわね」
「俺も帰るのが遅くなって、申し訳なかった」
図書室の書架整理が終わった夜、俺とウェリカは必要最低限なものしか置かれていないストレリチアの部屋でオルシナスとストレリチアに諸々起こった事を説明して、謝罪した。
「帰ってきてくれたのなら……それでいい……」
「無事なのは結構だけど、なぜボクの部屋に集まっているんだ」
「あんたの部屋が一番集まりやすいからに決まってるじゃない。物少なくて広々としてるし」
本当に言ってるよと思ってストレリチアを無言で見ると、ストレリチアもまた無言で頷いた。彼女は窓から夜空を見てため息をついた後、ウェリカに話しかけた。
「今ならボクの部屋よりも君の部屋の方が何も無くて広々としてるだろう。荷解きどころか荷物もまだ届いてないんだろう?」
「何も無さ過ぎても落ち着かないじゃない。それはそうとレイノはどこ行ったのよ?」
オルシナスとストレリチアは授業も無いのに教室で謎の絵が描かれたカードを使って遊んでいたのですぐに会えたが、レイノは図書室にも教室にも姿を見せる事は無かったので俺も気になっていた。
「行き先は教えてもらえなかったけど、用事があるって行って学校から出て行ったよ」
「用事? なんの用事なのかしら?」
「病院にでも行ってるんじゃないかな。具合悪そうだったし」
「具合悪そうって、大丈夫なのか?」
体調を崩したりしたのだろうか。もしそうなら心配だ。
「……本人は大丈夫だって言ってた……でも……顔色……悪かった……ずっと……」
俺の疑問にはオルシナスが答えてくれた。
「そうか。何も無きゃいいんだけど……」
「アルは……大丈夫……?」
オルシナスが四つん這いになりながら近寄ってきて、座っていた俺の顔を間近で覗き込みつつ尋ねてきた。めちゃくちゃ可愛いなと思って笑ったら。隣にいたウェリカに膝を殴られた。なんでだ。
「大丈夫だ。一度死にかけたけど今は見ての通り、ピンピンしてるよ」
「だったら…………よかった」
俺の返事を聞いて、オルシナスは少しだけ目元を細め、口角を上げた。可愛いのでついつい頭を撫でてしまう。髪がさらさらしてていい感触だ。
「……」
「えっと……どうした、ウェリカ?」
オルシナスを撫でてるとウェリカがじっとこっちを見てくるので聞いてみる。
「あたしも……撫でなさいよ……」
「なんでお前まで撫でなきゃ――」
「あたしの事可愛いと思ってるんでしょ!? だったら撫でなさいよ! ほら!」
怒ったような声で俺の顔に頭突きをかましてくるウェリカ。口に髪が入ってもぞもぞするしなんなんだよもう。確かに見た目は可愛いと思ってるけど頭突きは可愛くないぞ。
「わかったよ……」
撫でなかったらいつまでも頭突きをしてきそうなので仕方なくウェリカの頭も撫でてやる。やっぱり髪質って人によって微妙に違うんだな。ふわふわ感とかさらさら感とか。
「あ、待って……」
しばらく撫でているとウェリカは二つ結びにしていた髪をほどき、どこからともなく眼鏡を取り出して掛けた。
「……眼鏡……掛けてた……?」
オルシナスがウェンディに姿を変えたウェリカに率直な疑問をぶつける。
「いいでしょ別に! ほら、もっと!」
ウェンディになったウェリカに手を掴まれて縛りが無くなった頭の上に置かれる。そしてそのまま手を前後に動かされる。
「ボクは一体何を見せられているんだ」
ストレリチアが両手で二人の頭を撫でている俺を冷めた目で見た。
……ごもっともだった。