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第4話

 ライラに求人を紹介されてから一週間、俺はギルド経由で学校と何度かやり取りをした。


 そうして今日、ギルドのある王都ギガンテアからはるばる遠方にある緑豊かな地、ノコエンシスまで赴いたのだった。


 のはいいのだが「魔法学校の理事長のクインテッサ・ノコエンシスであっささあささっすっ!」ノコエンシス領に入った瞬間優雅な服装を身に纏った何かが何か喋りながら俺が乗っていた馬車に飛び込んできた。そして俺の服を両手で握りしめつば広帽子の下からにへら顔を見せつけてきた。


 馬車に飛び乗るな危ないだろとかそもそも貴族令嬢がこんなことすんなとかお前が理事長かよとかであさっすって何だよとか言いたいことが無限に浮かんだものの、ひとまず貴族に対しての礼節をもって話しかける。


「ご無沙汰しております。クインテッサお嬢様」


 こいつ……ではなく彼女はノコエンシス伯爵の一人娘にして次期当主であるクインテッサ・ノコエンシス。艶やかで長い金髪と透き通る白い肌をしたいかにもな貴族のお嬢様といった外見の少女で、一応国立魔法学校に通っていた頃の同級生でもある。

 

「むー。固いよー」

「……俺はもう貴族じゃないんで」


 俺がそう言うと、クインテッサは姿勢を整え、俺の隣に腰かける。そうして「お気になさらずーあはははー」と唖然としている御者に貴族らしからぬ態度で手を振りながら言った後、頬を膨らませながら俺に向き直ってきた。


「だとしてもさー、七年振りに再会した同級生に対してそれは無いんじゃない?」

「……お前がいいなら勝手にするけど」

「そうそう。勝手でいいのよー」


 それからしばらく馬車に揺られて黙ったまま、俺は薄化粧をしてご令嬢らしい美人になっていたクインテッサの横顔を眺めていた。今となっては元貴族だと思われもしなくなった俺とはえらい違いだな。なんてことを考えているとふと振り向いたクインテッサと目が合った。


「あ、もしかして、久々に会った美少女に見とれちゃったー?」

「ああ、そうかもなぁ」

「ええっ!?」

「それよりさ、お前が理事長だってんなら学校について色々教えてくれよ」

「それより!? それよりで流すの!?」

「自分で聞いといて何動揺してんだよ。実際中身はともかく、見た目はちゃんと綺麗になってて驚いたよ」

「む、むぅ……」


 クインテッサはなぜか釈然としなさそうな顔をしていたが、ややあって色々と説明を始めた。


「魔法学校はね、五年前に父さんが自分のお金で創設したの。うちや周辺諸侯の領地には元々魔法の素養がある人が多くて、ずっと前から作って欲しいって要望があったんだ。で、今年から私が理事長の座を引き継ぐことになったって訳」

「出世したんだな」

「何てったってそりゃ嫡子だも……あ……ごめん……無神経だったね……」

「今更気にするな。つーか変に気を使われても困る」

「あ、うん……。えっと、教育理念としてはね、貴族も平民も分け隔てなく扱って、他者を思いやることのできる個性豊かな淑女を育てるってことでやってるんだけど……」

「豊かすぎる奴が出て来ちゃったって?」

「まあ……うん……。魔法って、生まれ持ってる保有魔力量とか適性属性とかで同じ知識を持ってたとしても実際使える魔法は大きく異なるじゃない? それの閾値を超えちゃってるというか何というか……」

「なんだそれ……」

「とにかく、その子達のために新しくクラスを作ることにしたの。で、急遽そのクラスの担任になってくれる人を探してるってとこ。もしアルドリノールくんがなってくれるのなら、これ以上のことはないんだけど……どう、かな?」


 と、俺を上目遣いで見てくるクインテッサ。


「まあ、一度見てみないと何とも言えないな……」

「ほんと!? なら一度見たらすぐ決めて! お願い! お金いっぱいあげるから!」

「ああ、うん……」


 目を輝かせて俺の手を握るクインテッサの手は、柔らかくて、温かくて、少し湿っていた。

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