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第38話

 目を開けると、知らない天井が広がっていた。あのくっついている縦長の棒は一体何だろうか。白い光を放っているように見えるから照明器具の類なのだろうか。目を左側に向けると明るい木材で作られた小さな机と椅子があり、更にその奥に縦に伸びた窓があった。


 一体ここはどこだと身体を起こそうとした途端、ズキズキとした激痛が全身に走っけど何とかそれに耐えながら、胸から首にかけて包帯に覆われていてゆったりとした衣服を着せられていた身体を起こす。


 外を見ると四階か五階くらいの高さであり、穏やかな昼の青空の下に、マソティアナタワーを一回り小さくして横に広げたような白壁の建物が連なっていた。バキアでは見た事の無い風景だ。


 右側には陶器で作られたと思わしき白い洗面台があり、蛇口の後ろには大きな鏡がある。もっとも、今の視角からでは自分の姿は見えないが。


 ここまで周りと自分の状況を確認してみると、多分ここはブーゲンビリアの病院で、俺は入院させられているみたいだ。


 なんでだ?


 と上手く思考が回らない頭を手をやると、何とか思い出した。


 俺は確か……いや、それよりもウェリカはどうなっているんだ。


 結局、俺には助けられなかったという事なのだろうか。


 なんて事を遠くに見える歩行者を見ながら考えていると、ドアが開く音が聞こえた。


「お、どうやら意識が戻ったようだねぇー」


 部屋に入って来たのは、ここで働く医者だろうか、白衣を着た小太りの中年男性だった。


「自分の名前は言えるかな?」

「アルドリノール・レイクレイン……」

「うんうん。大丈夫そうだねー」


 男性は俺の言葉を聞いて満足そうに頷くと、首から下げていた名札のようなものを俺に見せてきた。


「僕は君の主治医をさせてもらっている、クサカベだよ。よろしくねー」

「は、はい……」


 クサカベさんはドアの方へと一旦戻ると、看護師らしき人を呼び止めて俺の意識が戻ったという旨を伝えていた。


「体内に入っていた玉は全部摘出したおいたよ。だけど経過観察をしておきたいから、もう三日くらいは入院してねー」

「三日ですか……。あの……俺、どれくらい寝てました?」

「二日だねー。まさかガランス王子が運んできたときはびっくりしたよー」


 二日も寝てたのか……。いや、それよりも。


「王子が……運んできてくれたんですか」


 ガランス王子って、ウェリカの婚約者の第二王子だよな。彼がどうして……。


「王子が予め治療魔法をかけてくれてなかったら危ないところだったんだよー。あ、入院治療費も王子が出してくれるみたいだから安心して休んでねー」

「そうですか……」


 どうして王子がそこまで俺に……? 王子からしてみれば俺は王宮に侵入して結婚を妨害しようとした邪魔者でしかないのに……。


「じゃ、何かあったらそこのボタンを押してねー」


 クサカベさんは枕元にあったピンク色の謎のボタンを見て言うと、部屋を去っていった。


 部屋には、再び静寂が流れる。二日寝てて、あと三日入院か。


 ウェリカの事も気になるけど、学校に残ってる三人、どうしてるかな。早いとこ帰って安心させてあげたい。


「アルドリノール!」


 クインテッサも怒ってるだろうななんて思っていると、首にフリルがついた薄い桃色のワンピースを着たウェリカが部屋に飛び込んできた。


「ウェリカ……」

「よかった……よかったぁ……!」


 ウェリカは俺の胸に勢いよく抱き着いてきて、そのまま大声を上げて泣き始めた。とりあえず、いつものような二つ結びにしている髪を撫でる。


「結婚の話は……どうなったんだ?」


 そんな彼女に、恐る恐る尋ねる。するとウェリカはベッドに上がると、ぼろぼろと大粒の涙を流しながら俺を見た。


「無くなったわよ! ガランスが父上を殺したから!」

「え……ええええええええ!? ど、どどどどういう事!?」


 一体何がどうなってそんな事になったんだよ!?


「父上があんたを銃で撃ったでしょ! それにガランスがブチ切れたのよ!」

「あ、え、いや、ちょ、なんで?」

「『目の前で人が傷つくのを見たら考えが変わったよ』って!」

「えぇ……いや……まあ……」


 普通に考えればそりゃそういう事もあるんだろうし、婚約者の父親があんなんだと知ったらそうなるのもさもありなんだろうけど、にしてもそれで……えぇ……!?


「とにかく! あんたのお陰で話は全部無かった事になったのよ! うわああああああああああああああん!」


 ウェリカはまた俺に抱き着いて号泣した。


 とりあえず……ウェリカが生贄や兵器にはならなさそうで良かった。


 でも……。


「学校には……戻れるのか?」

「うぅ……これからはお姉ちゃんがお金出してくれる事になって……卒業まで縁談は一切受けさせないって約束してくれて……わああああん!」

「そうか……良かった」


 辺境伯が死んだならカトレアがクラウディア領の領主になるのか。とにかく、カトレアには感謝感激だ。それと銀髪幼女と殴り合っていたのを放置して先に行ったのを謝りたい。


「あと三日入院が必要みたいだけど、退院したら一緒に帰ろう。学校に」

「うん……うん……!」


 身体の上で泣き続けるウェリカを、俺は泣き止むまで撫で続けた。

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