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第32話

「まさかドラゴンに乗ってここまで来たのか!?」

「わたくしはウェリカの姉でもありますが、高貴なるドラゲナイでもありますもの! クラウディア領からノコエンシス領なんて一飛びですわ!」


 おーっほっほほほほと高笑いするカトレア。ドラゲナイって何だよと一瞬思ったが竜騎士ドラゴンナイトの事かとすぐに気づく。そういやクラウディア領は山岳地帯が多い故ドラゴンでの移動や輸送が主流だと聞いた事がある。だから貴族だろうがドラゴンに乗れるのもごく自然の事なのか。


「貴方はシンシュの後ろに乗りなさい。先駆けはわたくしが務めさせていただきますわ!」

「お乗りください」

「は、はい……」


 カトレアが慣れた動作でドラゴンに跨ったのを見ていると、シンシュさんがちょうど一人分空いている鞍を叩いて俺も乗れと促した。


 乗るしかないのか……。


 いや、俺はウェリカを助けると決めたんだ。もう迷えない。震える足を引っ叩き、一歩一歩、ドラゴンに近づく、


「よ、よろしく……」


 俺はシンシュさんを乗せながら行儀よく座っているけど目つきがちょっと怖いドラゴンに話しかけた後、シンシュさんの後ろに跨った。


「お願いします……」


 深呼吸をしてから、水色の髪をきっちりと肩の上で切り揃えているシンシュさんの後ろ姿に言う。


「転落の危険性がありますので、わたくしの腰に手を回してください」

「は、はい……」


 俺を見ずに前だけを見ているシンシュさんにそう言われたので、素直に従って手を回し、シンシュさんのお腹の前で両手を組む。無駄な肉は無いものの女性特有の柔らかさも失われていない、まるで高級食パン、まさに理想と呼ぶにふさわしい感触であり――こんな事こんな時に考えるな俺!


「あああああっ!?」


 邪な感情を払おうとした途端ドラゴンが羽ばたいて一気に高度を上げた。ああヤバイ。マジでヤバイ。地面がどんどん遠くなっていく。ああヤバイ。漏れそう。ヤバイ。


「もしかして、高所がお嫌いですか?」


 手綱でドラゴンに指示を出しているシンシュさんが背中を向けたまま俺に尋ねてきた。


「はい! 無理です!」


 ドラゴンが空を切り裂く音を聞きながら、感情のままに叫んだ。


「でしたらわたくしとお話しましょう。さすれば少しは気が紛れるでしょう」


 シンシュさんにそう言われたが、ドラゴンに乗って空を飛んでいるというこんな状況で一体何を話せばいいんだ。ドラゴン!?


「この子の名前は何ていうんですか!?」

「カノンちゃんと言います。三十三歳の女の子です」

「三十三歳!?」


 まさかの俺より年上!?


「ドラゴンとしてはまだまだ子供ですよ」

「そうなんですね!? ちなみにシンシュさんは何歳なんですか!?」

「今年でニ十歳になります」


 今度は俺より年下!? 若いのにしっかりしてるな!? ていうか女性に年齢聞いたらダメだろ俺!?


「すごいですね!? 若いのにこんなにドラゴン乗りこなせるなんて!?」

「カトレア様の従者として当然のスキルです」

「偉い!? 素晴らしい!?」


 もっと語彙力を上げて褒められないのか俺は!?


「わたくしからお伝えしたい事があるのですが」

「な、なんですか!?」

「ウェリカ様の事についてです」

「ウェリカ!?」


 何かまだあいつについて知らない事があっただろうか!? あいつもドラゴン乗れるのかな!? まだまだ知らない事だらけだな!?


「ウェリカ様も生まれた時はわたくしたちと同じく、魔法が使えなかったんです」

「なんだってえええええええええええええええええええええ!?」


 ありえない!? そんなのはありえないぞ!? だって!


「魔法の才能は生まれ持った魔力腺の形状や器官によって決まるものです!? だから使えない人が後天的に使えるようになるなんて事は起こり得ないんですよ!?」


 俺はウェリカにも説明した事をシンシュさんにも説明した。魔法が使えない家系から魔法の才能がある子が生まれてくる事はある。だけどそれでもその子自身が生まれ持って得た才能によって使えるものでその事に関しての例外は一切無い。ここまで思考を巡らしたら少し冷静になれた。足下は見ないようにする。


「わたくしも普通はそうだという事は知っています。しかしながら事実、ウェリカ様は凄まじい魔力を持っているのでしょう?」

「はい。前代未聞としか言いようがないくらいにすごいものを!」


 だからこそ、こんな大事になってしまっているのだ。


「ウェリカ様は小さかった頃、風邪をこじらせてしまって生死を彷徨っていた時期があったのです」


 シンシュさんはカノンちゃんを方向転換させた後、再び話を始めた。異常な魔力以外は至って健康そのものなウェリカにもそんな過去があったのか。


「ですがある日、体調が急激に良くなったのです。まさに体調急変、病人が急に病状を悪化させるのと完全に真逆の事態が起こりました」

「もしかしてそのとき……?」

「はい。ウェリカ様は病気が完治するのと同時に、魔力を身に宿していたのです」


 まさか……風邪をひいたから風の魔法の才能に目覚めた……?


「いやいやいや! おかしいでしょそんなの!? ありえなさすぎる!」

「しかしウェリカ様には紛うことなき魔法の才能がある。ですよね?」

「ですけど! 常識的に考えて絶対にありえません! そんなのは!」

「常識の範疇に収まらないのがウェリカ様ですよね?」

「ですけど! ああもう! 本人に詳しく聞くしかないか!」

「仰る通りです。少し速度を上げますよ」

「え? うあああああああああ!?」


 カノンちゃんが速度を上げたせいで風に身体を持っていかれそうになったので慌ててシンシュさんに強く抱きついた。強すぎるかな。大丈夫かな。


「そうです。そんな感じでしっかり掴まっていてください」

「は、はい……!」


 俺は落ちないように、何も考えずシンシュさんに掴まり続けた。

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