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授業6 魔法薬について

「今回は魔法を用いて作られる薬物について授業をする」


 結婚式への参列から一夜明けた今日も俺はいつも通り「アナザークラス」の教室の教壇に立ち、いつも通り席に座っている四人と向かい合った。


「まずはこれだな」


 俺は緑色の液体が入った瓶を教壇に置く。


「これはライフポーション。回復魔法の原理を基に薬草を精製して作られたもので、傷口に掛けたりすると回復を促進させられる」

「飲んだらどうなるの?」


 ウェリカがライフポーションをじっと見ながら質問してきた。


「飲んでも自然治癒力が上がる効果を得る事が出来る。だが如何せん味がまずすぎるから推奨はしない」

「そう。じゃあ飲んでみてもいいかしら?」

「俺今まずいって言ったんだけど!?」


 俺の言葉に一切動じる事無くウェリカが言うものだから俺が動じてしまった。


「ライフポーションの一本二本飲めずして何が天才最強美少女貴族魔法使いよ!」

「言っとくけど冒険者でも普通飲まないからな!?」

「あたしは天才よ! いいからほら! 飲ませなさい!」

「……飲みたいなら止めないけど、後悔するなよ」


 教壇の前まで来てウェリカが言うもんだから、俺は仕方なく瓶をウェリカに渡した。


「いただくわ!」


 ウェリカは勇よく言うと、瓶の栓を開けて口に咥えてライフポーションを飲んで――。


「まっず!!」


 貴族のお嬢様が出しちゃいけない類いの声で叫び、床に緑色の飛沫が飛び散った。


「だから言っただろうが!」

「なにこの……べちょべちょしてて苦いのは……」

「ああもう……とりあえずこれ飲め!」


 泣きそうになっているウェリカからライフポーションの瓶を奪い取った後、代わりに赤色の液体が入った瓶を渡した。ウェリカはむせながらも栓を開けると貴族らしからぬ豪快さで赤色の液体をグビグビと飲み始める。


「後で私が拭いときますね……」

「ありがとうレイノ……俺も拭くよ」


 ウェリカが液体を飲んでいる間、レイノが苦笑いで緑の模様が作られた床を見ながらそう言ってくれた。やっぱりめちゃくちゃいい子である。


「なにこれ!? めっちゃ甘くて美味しいんだけど!?」

「だろうな」


 俺は口元に緑を付けたまま叫んで感想を言うウェリカに頷いた後、説明を始める。


「この液体はマナポーションと言って、飲むと魔力腺の働きが活性化されてマナの取り込みを促進させる事が出来るものだ。味の感じ方はそれぞれの保有魔力量によって変わるとされていて、多ければ多いほど甘く感じるとされている。魔力腺が無い人が飲んでも毒性こそ無いがすぐに吐きたくなるらしい」

「これは身体に掛けないの?」

「ああ。こっちは掛けても意味は無い」


 一気に飲み干したウェリカが俺に空き瓶を渡しながら聞いてきた。そのタイミングで俺はちょっとした秘密を暴露する。


「ちなみにどちらも専門技術を持った錬金術師しか精製出来ない高級品だ」

「高級品……ってそれを先に言いなさいよ!」

「俺が元々持ってたけど使ってなかったものだし気にするな」

「使ってなかった!? 賞味期限とか大丈夫なんでしょうね!?」


 使用期限じゃないのかよ。完全に飲み物だと思ってやがるな。


「ここに来る直前に買ったやつだから大丈夫だよ。半年くらいは持つって聞くし」

「具体的にはいつ買ったやつなのよ!?」

「二ヶ月くらい前だ」


 二ヶ月か。教師になってからいつの間にかもうそんなに経ってたんだな。そういやパーティーが解散してからソロで続けてた期間も二ヶ月くらいだったっけか。同じ時間でも、感じ方は全然違うものなんだな。なんて感慨にふけりながら俺は瓶をしまうと小さな飴玉のようなものを教壇に置いた。


「これは回復薬といって、飲むと魔物にやられた際の毒だったり麻痺だったり混乱だったりの状態異常を回復する事が出来る。例によってこれも高級品だ」

「味は?」

「普通の薬と変わらない」

「ならやめとくわ」


 ウェリカはそれを聞くと興味無さそうに戻っていった。もしかしてまずいって言ったら飲もうとしたのか? ……まあいいや。総括に入ろう。


「実際これらを使う人が多いかと言われると微妙だ。騎士団なんかの組織に属しているのならともかく、冒険者みたいな個人か少数でやっているのだと特にな。必要な分を揃えようとするとそれだけで結構な経済的負担になってしまうし、魔物と戦ってる間に瓶を割っちゃって鞄の中が大変になったりする事も珍しくない」


 あの時は鞄を拭くの大変だった。


「だからこそ、俺みたいな回復役ヒーラーが重宝されるんだ」

「なるほどね……」


 ウェリカが真面目にノートに書き込みをしているのを眺めていると、教室のドアがゆっくりと三回ノックされた。誰だろうと思いつつ、俺はドアを開けた。


「ウェリカ・クラウディアさんはいらっしゃいますか?」


 ドアをノックしたのは――この学校の事務を担当しているらしい女性職員だった。


「え……?」

「ウェリカがどうかしたんですか?」


 突然名前を呼ばれたことに動揺しているウェリカに代わり、俺が尋ねる。


「はい……。その……たった今……」

「今?」

「クラウディア辺境伯と辺境伯夫人がお越しになられまして……」


 俺は無言でウェリカを見る。


「あたし……知らない……」


 ウェリカは怯えた顔で、首を横に振った。

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